「映画も豆腐屋も絶滅危惧種みたいなもの」
映画作りに込めた思い
―――麻生さんが机でうたた寝をするシーンでは、豆腐を使った新メニューを考案するノートが映し出されます。日本の伝統食を、純度を落とさずに世界に届けるとか、次の世代へつなげる人たちも本作には描かれていますね。
「豆腐に対するエールですね。豆腐、大好きなので、頑張ってほしいなと。あとはやっぱり“街の豆腐屋さん”へのエールですよね。別にスーパーで売られている豆腐が悪いわけじゃないですけど、やっぱり豆腐屋の主人が毎日朝早く起きて仕事に打ち込んでいる姿って日本人だなと思うんですよ。
お金儲けや、それに伴うデジタル化が悪いとは言いませんが、汗水垂らして生きている人たちがいるのがこの国ならではの良さだと思うので、しっかりと撮っておきたいなと思ったのです。それこそ、20年後には豆腐屋なんて無いかもしれないですからね。遠い昔の映像に出てくるだけの存在になるかもしれないですから」
―――そうならないためにも奮闘するのが麻生久美子さん扮する春であり、そういう人たちの想いが、しっかり映っているところも素敵だなと思いました。
「それは僕らの映画作りにつながるかもしれませんね。今後はこういう映画が無くなっていくかもしれないけど、片隅に残っていてもいいんじゃないかという思いがあります」
―――近い将来、大画面で映画を観るという文化自体が無くなるかもしれません。
「配信サイトを通じてスマホで映画を観るようになっていますからね。『映画、観ましたよ』と言われて、『どこに観に行ったん?』って返すと、『スマホで観ましたよ』って。僕は古い人間ですから、『ええー!』って思います。
もちろん、どんな形であれ映画を観ているだけで偉いと思います。でも、やっぱり大きなスクリーンで観る喜びは特別ですからね。映画も豆腐屋も、絶滅危惧種みたいなものですよ。そんな中、僕らはなんとか悪あがきしながら、作品を残していくしかないと思っています」
―――では、最後に本作をこれからご覧になる方にメッセージをお願いします。
「ささやかな暮らしをどれだけ丁寧に描けるかということに挑んだ映画です。この映画の主人公って、もし亡くなっても、地元の新聞に一行だけ取り上げられるだけの、ある意味、大してニュースにならない存在だと思うんですよ。でも世の中のほとんどの人がそうであるわけです。
僕が映画で描きたいのは、スーパースターのような人の華々しい人生ではなく、誰も知らない市井の人々の暮らしです。『高野豆腐店の春』も本当にささやかな尾道の親子の物語ですが、その親子を通して何か、人生の見つめ方みたいなものを描けたらなと思って作りました。
とはいえ、決して難しい映画ではありません。基本的には娯楽映画なので、笑ったり泣いたり、色んな感情に浸りながら、ワクワクしながら観てほしいですね。僕、昔の松竹の二本立てとか大好きだったんですよ。『男はつらいよ』の併映作とかね」
―――当時のプログラムピクチャーを観ると、娯楽作として楽しめると同時に、実は多様な問題が描かれていたりして、ハッとすることも多いですよね。
「みんな過激ですからね。『男はつらいよ』なども見方によっては、もの凄く過激で、アウトローな映画だったりしますからね」
(取材・文:山田剛志)
【作品情報】
出演:藤 竜也 麻生久美子 中村久美
徳井優 山田雅人 日向丈 竹内都子 菅原大吉 / 桂やまと 黒河内りく 小林且弥 赤間麻里子 宮坂ひろし
監督・脚本:三原光尋
製作:桝井省志 太田和宏 プロデューサー:桝井省志 土本貴生 山川雅 撮影:鈴木周一郎(JSC) 照明:志村昭裕 録音:郡弘道 美術:木谷仙夫
編集:村上雅樹(JSE) 音楽:谷口尚久 タイトルデザイン:赤松陽構造 助監督:金子功 小村孝裕 アシスタントプロデューサー:吉野圭一
企画・製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ 配給:東京テアトル 製作:アルタミラピクチャーズ/東京テアトル
助成・文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
©2023「高野豆腐店の春」製作委員会
公式サイト
【関連記事】
「心から“すげえなぁ”と思った」藤竜也、80代最初の主演映画『それいけ!ゲートボー ルさくら組』野田孝則監督インタビュー
「“自分は死にません”って顔している人、多くないですか? 」暴力の痛さを描く傑作『青春墓場』奥田庸介監督独占インタビュー
「自分を救うために演じた」奥田庸介監督最新作『青春墓場』主演・田中惇之& 笠原崇志、 独占ロングインタビュー