「生々しい空気感がよく出ていると思った」
観客の想像力を刺激する“余白”
―――響子が面接を終えて公園のベンチに座りながら物思いにふけるシーンなど、普通の映画ならカットされてもいいような余白の部分、「ヨーイ、スタート」の声がかかる前の表情を映したようなカットが印象的でした。
「撮影中は『あ、カットかかるのがゆっくりだな』と思ったり、『カメラがまわって最初のセリフを言うまでに間をください』とご指示をいただくことは結構ありましたね。でも演じている時はあまり意識せず、お芝居に集中していました」
―――完成された作品をご覧になって、どのような印象を持たれましたか?
「引きの画が印象的で、生々しい空気感がよく出ていると思いました。多分、それがある種の余白を感じさせるのかもしれません。引きのカットによって、それぞれの役者さんたちの生のお芝居、リアルな空気感がよく伝わります。表情が見えないからこそ、『一体どんな表情しているのだろう』、『どんな心情なんだろう』と観ていて想像力を刺激されます。
また、引きの画が多用されていることで、寄りのカットが力強く見えるような編集がなされているようにも思いました。それは撮影している時は全然わからなかった部分です。画が繋がったのを観た時に、監督がどのような狙いでカットを撮っていたのか初めて理解できた気がしました」
―――ロングショットで撮られることが、お芝居に与える影響はありますか?
「それはありますね。撮られている感覚があまり無くて、リラックスしてお芝居ができます」
―――響子と菜穂子が初めて膝を付き合わせて話すシーンも引きのショットでした。
「そうでしたね。あのシーンも私たち被写体とカメラとの距離がかなりあって、カメラが視界に入らない状態でお芝居をしていました。私はそれがとてもやりやすくて、どの現場でも『望遠レンズで撮ってくださらないかな』って思うんですけど(笑)。
今回の映画では、基本的にどのシーンも引きのマスターショット※があったので、完成した作品を観た時に、それが『こんな形で使われているんだ』と驚くと同時に、作品全体の雰囲気がちゃんと統一されていて、とても好きでした」
※一つのシーンで基本となる位置から撮影されたショット