映画『君たちはどう生きるか』海外レビュアーの評価は? 宮崎駿が引退宣言を撤廃して描いたのは、暴力と破壊ではなく“創造”
映画『君たちはどう生きるか』は、宮崎駿監督が映画『風立ちぬ』での引退から復活し、再び筆を取った作品。本作は国内外で多くの注目を集めたが、その内容は非常に示唆的であり、観客により感じ方の異なる映画であった。今回はそんな本作の解釈を深めるため、海外のレビューを米The Hollywood Reporterより紹介していく。
宮崎駿の創り出す美しい描写と世界観
観る者によって異なる解釈を生む
映画『君たちはどう生きるか』(2023)の物語では、若い頃の宮崎駿監督自身を投影していると思われる、主人公の牧眞人(まきまひと)が、異世界の主として君臨する大叔父から、石を受け取り、その石で3日ごとに塔を築くようにと指示を受け、悪意のない美しさと調和に満ちた世界を創り出す使命を担うというシーンがある。
これは、82歳のアニメの巨匠・宮崎駿が、芸術家としての卓越性と無制限の想像力を武器に、自身のキャリアを通じてやってきた宮崎駿の仕事そのものと重なっているように見える。
宮崎駿の10年ぶりとなった最新作である本作は、2013年の映画『風立ちぬ』に続くものだ。
映画『風立ちぬ』は当時、宮崎駿という伝説のアニメーターによる最後の作品として発表された。
作品の哀調漂う色調と、夢を現実に形作り、暴力と破壊ではなく“創造”を選択するというインスピレーションに満ちた作品テーマは、彼の最後の作品としてふわさしいものだった。
しかし、宮崎駿の幻想的な世界は、これで終わりではなかった。
宮崎は引退宣言を翻し、今度こそ本当に最後の作品となるであろう、映画『君たちはどう生きるか』を製作した。
本作は、宮崎の幼少期の思い出を引き出しに、人は一生の中で混沌をさまよう避けられない運命を持ち、その悲しみの中で平和や安心を発見し、自己の存在をしっかりと守り抜くことについて豊かな空想とともに振り返っている。
ただ、上述した内容はあくまでも一つの解釈に過ぎない。作品を観た人それぞれが異なる意味を見出しているだろう。
また宮崎駿は、手描きアニメーションの忠実な支持者である。
ファンの多くは、彼がCG技術を多用せず、手描きのアニメ製作スタイルであり続けることに期待をしている部分がある。
映画『君たちはどう生きるか』の美しい映像は、田舎の豊かな緑の風景から、そよ風に揺れる花々、家の建築的な壮大さ、そしてその上に昇る朝日の穏やかな光まで、目を見張るほどのクオリティだ。
まるで絵画のような背景の色彩と質感は、見る者を作品の中に迷い込ませるかのように誘う。
アオサギだけを取っても、筆と墨により描かれ、生き生きと鮮やかに表現される。その鷺の足が水面を離れるときの波紋、水面に落ちる音、そして離陸時の羽根の羽ばたき、舞い上がりに急降下、着水するときの優雅な伸び。
本作では、その幻想的な物語の展開に少々戸惑うこともある。しかし宮崎駿の映像表現が持つ描写力を常に思い出させてくれる作品でもある。
映画『君たちはどう生きるか』は、宮崎駿監督の数々の作品と比較すると、小さな年齢の子どもたちには理解が難しい内容だ。
しかし、宮崎駿監督のアニメ作品と共に成長した、現在の親の世代である人々は、この作品に多くの意味が込められていることに気づくだろう。
本作の核には優しさ、哀愁、そして驚きが存在する。
この映画は様々な見方が可能だが、基本的には、葛藤や悲しみに直面した際の心の回復をハートフルに描き、友人や信頼できる味方を自身で見つけ、前進し、世界に人間性と理解をもたらそうという優しい呼びかけのようにも見える。
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