「一種の社会への抵抗」
監督の描きたかったものとは?
―――前作『東京の恋人』も拝見させていただきまして、本作との共通点として過去の女性が現れます。前作では青春の終わりを感じ、本作では青春の始まりを感じたのですが、ある意味どちらも青春にケリを付ける話だと感じました。監督の中に青春に対する想いがあるのでしょうか?
「無意識ですけど、あるんだと思います。そんな音楽ばっかり聴いてきたので、刷り込まれているのかもしれません」
―――音楽からインスピレーションを得て脚本を書くこともありますか?
「ありますね。今回ロケハンを手伝ってくれた市川夕太郎くんが、ドライブ用にプレイリストを作ってきてくれて、その中に本作の主題歌を手がけてくれたアーティスト“すばらしか”の曲が入っていました。
元々存在は知っていて、Youtubeなどで観ていたんですけど、突然店の中で流れてくる曲に衝撃を得ることってあるじゃないですか。そんな感じで、流れてきた瞬間にガツンと来て、すげぇいいなと思ったんです。それから主題歌に使わせてくれるよう頼んで、脚本を書いている時もずっと聴いていましたね」
―――本作の芝居、カット割、シーン含め、主人公の心情やヒロインとの関係性を示す、宙ぶらりんのような行間を感じさせる演出が魅力的でした。
「僕は現場で心情の説明はしないんですけど、フラットな感じが好きなので、『あまり芝居をしすぎないようにしてほしい』ということは伝えましたし、俳優たちに好きにやってもらいたいという気持ちで演出していました」
―――古谷がさかたりささん演じる遠山美優と出会った後の居酒屋でのシーンでは、美優に向ける目線に、相手の中に自分を探しているようなニュアンスを感じました。古谷は探偵の他に音楽をやっていますし、どこかに自分の居場所や生き方を探しているのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか?
「居酒屋でのシーンは、純粋に推理をしている探偵の視線なんです。とはいえ、確かに自分探しをしている部分もあるのかもしれません。一種の社会への抵抗として、日々を大切に自由に生きたいと思っているんじゃないかなと」
―――監督ご自身も社会への抵抗やロックンロールな生き方をされているんでしょうか?
「世の中には色々と疲れているので…。ゆくゆくは無人島に行って一人で暮らしたいですね」