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「絶妙なタイミングで傘が動いてくれた」
細部の演出と今後の展望について

宮城夏子
写真宮城夏子

―――細部についても伺えればと思います。終盤、目隠しをされた弓子がハイヤーに乗るシーンでは、背景にピンクの傘が開かれたまま置かれていて、それが風で吹かれていく。彼女の運命を表現しているように思えたのですが、やはり今申し上げたことを狙って配置されたのでしょうか?

「そのように受け取ってもらえると大変有難いが、そう明確に狙ったわけではないっていう感じです(笑)。あそこは、そもそもなぜ先生がラブホテルにいたのか、まったく説明されていないのだけれども、ライバルから身を隠すために潜伏していたという設定なんです。

要するに、商売敵に見つからずに名画を手に入れるため、ラブホテルで1人身を潜めていたわけです。ご指摘のシーンですが、ハイヤーに乗り込む場所をどこにしようか、ロケ地選びにとても困ったんです。

シナリオ上は、上野公園裏の路上になっていたのだけど、なかなか都合のいいロケ地が見つからなくて。当初は乱歩的な世界観を自分の中で描いていたのだけれど、場末のイメージに切り替えた方が良いかもしれないと思い、ラブホテルの敷地内で撮ったんです。

場末感を出すため、美術部に『ゴミ捨て場を作ろう。ゴミをいっぱい用意してくれ』とお願いしたところ、古い傘を持ってきてくれた。撮影日は凄く風の強い日だったのですが、良い感じに殺伐感が出るはずだって傘を置いたら、絶妙なタイミングで傘が動いてくれたんです」

―――絶妙でした。スタッフが充実したショットを実現するために積極的にアイデアを出してくれるという状況は、監督として嬉しいかぎりでしょうね。

「そりゃ嬉しいですよ。常にスタッフの参加を求めているし、そういう雰囲気は伝わるので皆さん積極的にやってくれます」

―――塩田監督が描く三角関係(安達祐実さんを含めると四角関係になりますが)は、二人の男が一人の女を取り合うといった、古典的なドラマに発展しないところがユニークだと思っています。そうした点と安達祐実さんの一人二役というモチーフから、鈴木清順監督の大正浪漫三部作もちょっとだけ想起しました。

「テーブルに乗った春画が回転する春画鑑賞会の舞台は、シナリオ上は金沢になってるんです。金沢っていうと『夢二』が思い浮かびますよね。

とはいえ、今回は鈴木清順監督のことはそんなに意識してなかったかな。むしろ似てしまうことを恐れていたかもしれない。だからそういう意味では、シナリオに取り組んでいる時に思い浮かんだ名前ではありました」

―――最後に塩田監督のイチファンとして、次回作のビジョンがあれば伺いたいところです。

「次回作はどうしようかなと思っているところですね。どうしましょうかね」

―――塩田監督が次は何をお撮りになるのか。想像するのも楽しい作業です。

「常に問題になるのは次のようなことですね。題材として非常に物語性豊かな、お客さんウケするのではないかというストーリーに取り組むと、それはそれで良い作品が仕上げるのだけど、監督としては『こんなのどこにお話があるの?』という作品に取り組んだ方が、より自由に、より跳ねた描写が出来るというのがあって。

望まれるのは前者なんだけど、やりたいのは後者っていうバランスをどう取っていくか。それは常に問われている(笑)。抽象的なんだけど(笑)」

―――両方に引き裂かれている感じというのは、塩田監督のどの作品にも見られるかと思います。

「そうなんですよね」

―――次回もその間で映画を作るしかないという…。

「そういうことなんでしょうね」

―――本日は大変充実したお話を伺えて嬉しく思っております。ありがとうございました。

(取材・文:山田剛志)

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