「思い通りにいかない理由を考えるときに、人は頑張れる」
印象に残っているシーンについて
―――個人的に、印象に残ってるシーンは、ありますか。
「唯一、縁はその様を見ているだけの、芸術の勉強をされている学生たちが劇場に集まるシーンですね。あの異様な雰囲気は、怖さもあるのですが、理路整然としていて、見ていてとても素敵でした」
―――逆に、ご自身が出演していないシーンで、印象的だったのは?
「縁の父である研究者・浩介とその後輩が対峙する、可境の場面ですかね。大の大人同士が『人間は資源だ!』『あなたは間違っている!』と、真剣にバチバチにぶつかり合っているんです。
そんな様が怖かったのですが、とてもドラマチックで。そうですね、世の中には、色々な考え方があると思わせる描写なのではないでしょうか。どちらの意見もわかり得るし。そういった両者の意見を客観的に聞いて、では、自分の意見って何なのだろう?と考えられる、あのシーンはすごく魅力的でしたね」
―――「人間は資源だ!」って、斬新なフレーズですよね。
「ええ。全編通して1番好きなシーンです。お芝居の中だけでなく、自分の人生はどうなんだ?と、いい意味で懐疑的に考えさせてくれました」
―――脚本を読んで、この物語の結末を知った時は、どう思われましたか?
「縁は家族というものを求めた結果、別の家族として生きてゆくという複雑な結末だと思っているのですが、見方によって意見が分かれるでしょうね。自分の思い通りにならないことの中で、どういうふうに目の前の人生を生きていくかといったことを、私は思いました」
―――思い通りにいかないことって、たくさんありますからね。
「その思い通りにいってないことの理由は何なのかって考えた時に、人は頑張れるのではないかと。経験や、積み重ね、願望だとか様々なものがミックスされて生まれるのが、本当の自分の意思なのではと」
―――深いですね。
「ちょっと哲学的になってしまうかもしれませんが、個人っていうものは、社会と対比してあるものだと思うんですね。自分の考えていることって、本当に“自分自身が”考えているのか?とも、それこそ懐疑的になることがありますし。本当は人の意見を自分の言葉のように喋ってるだけなのではないかと。観た方々が、そんなことを考えるきっかけになったら、ちょっと面白いのかなとも思える作品ですね」