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ターニングポイントで繰り返される背後からのロングショットに注目〜映像の魅力〜

撮影を担当したのは、『万引き家族』(2019)で日本アカデミー賞最優秀撮影賞に輝いた名カメラマン・近藤龍人のもとでアシスタントを経験し、横浜聡子監督や石井裕也監督の作品で腕を振るってきた、1979年生まれの鎌苅洋一。役者の即興的な動きを躍動的に捉えることに長けたカメラマンである。

役者の息づかいや心臓の鼓動までをもすくい取るような、30秒から1分ほどの比較的息の長いカットが印象的である。信号待ちをする麦と絹が初めてキスをするカットは、2人の背後から撮影されている。表情が映されないことによって、2人の間に広がる空気感が豊かに表現されているのだ。

他にも、麦と絹を背後から映したカットは重要なポイントで登場し、2人の関係性の変化をヴィヴィッドに表現する。多摩川沿いのアパートに居を移し、ベランダでワインを飲み交わすシーンでは、身を寄せ合う2人が川を背景にしたロングショットによって背中から映される。信号待ちのシーンでは、まだぎこちなかった麦と絹の関係はすでに親密となっており、2人の距離の近さが、あふれる幸福感とともに強調されている。

次にカメラが2人を背後から捉えるのは、友人の結婚式の帰りに、赤いネオンの観覧車を見上げるシーンにおいてだ。2人の心はすでに別々の方向を向いており、上記の2カットに比べて、2人の間には距離がある。それに続くシーンでも、夜道を歩く2人が背後から映されるが、それぞれの手に握られた結婚式の引き出物がブロックの役割を果たし、決して埋めることのできない心の距離感が可視化されているようだ。

本作の映像は決して派手さはないが、演出と一体となったカメラワークによって、主役2人の関係性をさりげなく、的確に表現している。

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