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「セミの鳴き声が生命力の象徴として響けば」
「夏の映画」としての稀有な魅力

映画『市子』
©2023 映画市子製作委員会

―――“暑さ”が市子の行動に影響を与えるということですが、本作は夏の映画でもありますね。主要なシーンは夏に設定されているのですが、どのような狙いがあったのでしょうか?

「市子って何があっても生きることを止めない強さと言いますか、執着と言ってもいいかもしれませんが、とにかく生命力のある人物として描かれていて、彼女の周囲で鳴っているセミの鳴き声が、生命力やエネルギーの象徴として観る人の耳に響けばいいなと思ったんです。

セミは原作でもずっと鳴いているんですよ。ちなみに大阪にはクマゼミ(黒くてがっしりした体つきの大型のセミ)が多くて、夏は耳をつんざくような声で鳴くんですけど、そのエネルギーたるや狂気じみていて。作品に採り入れたいなと思ったんです。」

―――なるほど。今お話になったことと関わるのですが、市子の汗を丹念にお撮りになっていますよね。私が仮にこの作品のレビューを書かせていただくとしたら、『市子の汗』というタイトルにしたいと思うほど重要な細部だと思いました。市子は生への執着を言葉にはしませんが、何よりも彼女の汗がほとばしる生命力を雄弁に物語っている。とても映画的で素晴らしい細部だと思いました。

「ありがとうございます。今回、汗を撮るっていう意識は明確にありました」

―――市子はお客さんの想像力を借りて作り上げられていくキャラクターだと思いました。

「はい。想像する過程で杉咲さんの顔が強烈な謎を残していく。「こいつ一体何を考えているのだろう」と。杉咲さんはそうした強度を役に与えてくれました」

―――今回、舞台で市子を演じられた大浦千佳さんが、市子の小学校時代の同級生・さつき役で出演されていますね。

「今回、大浦さんは方言指導も担当しています。とはいえ、杉咲さんは本当に耳が良い方で、指導がほとんど必要なかったのですが。ともあれ、撮影中は、大浦さんには杉咲さんの近くにいてもらいました」

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