ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 濱口竜介、エドワード・ヤンを語る。『エドワード・ヤンの恋愛時代』上映後トークイベントレポート【第35回東京国際映画祭】 » Page 2

濱口竜介が語る、エドワード・ヤンの集大成的なテーマとは?

写真映画チャンネル

続けて濱口は、うわべだけのコミュニケーションにうつつを抜かす『恋愛時代』の登場人物たちが後半に見せる“ある変化”に着目する。

エドワードヤンの恋愛時代©Kailidoscope Pictures

「最初は登場人物たちの顔がクリアに見えるのだけど、後半に至るにつれて、闇に浸されるような形で表情が見えなくなっていく。そして、次第に都市の光が届かないような場所でコミュニケーションし始める。その時に描かれるのは、それまでには見られなかった、親密な言葉のやりとりです。画面が闇に覆われ、登場人物たちの顔が見えづらくなっていく過程で、今までとは少し違った声が生まれてくる。そんな印象があります」

エドワードヤンの恋愛時代©Kailidoscope Pictures

濱口は「エドワード・ヤンは一作ごとに自身のスタイルを大胆に更新していく作家である」と語り、次のように言葉を続ける。

「物語が進行するにつれて、キャラクターたちが人間性を回復していく『恋愛時代』は『クーリンチェ』とは異質です。それはエドワード・ヤンが心から求めていたものではないか。『クーリンチェ』のような悲劇的な傑作を撮ってしまったあと、絶望的な状況で喜劇的なことをやろうとする。そういうトライが本作から始まろうとしているのではないか。今回再見して、そんなことを強く思いました」

エドワードヤン2007年に59歳でこの世を去った

持てる力を振り絞って一世一代の傑作を撮り上げた後、映画監督はどのような方向に進むべきか。『ドライブ・マイ・カー』と『偶然と想像』(2021)という2本の傑作を立て続けに監督し、早くも次回作を見据える濱口自身の決意もトークの端々に垣間見える。

過去作『寝ても覚めても』(2018)、『ドライブ・マイ・カー』でエグゼクティブプロデューサーを務めた久保田修氏は、エドワード・ヤンの遺作『ヤンヤン 夏の思い出』の現場にも参加。自作の製作期間中、濱口は機会があるたびに、エドワード・ヤンの人柄や演出について久保田氏に質問をしていたという。

写真映画チャンネル

「個人的に『ヤンヤン 夏の思い出』は、『クーリンチェ』に並ぶ傑作だと思っています。『ヤンヤン』では『クーリンチェ』で顕著に見られる映像と音響の解体を推し進めつつ、『恋愛時代』で培った俳優との共同作業が非常に強く反映されている」

濱口は続けて「人生は生きるに値する』と言い切れるような何かを、エドワード・ヤンは映画を通じて探求していた」と語り、近い将来、全作品が上映される機会が訪れることに期待を寄せた。

【関連記事】
映画「ドライブ・マイ・カー」世界的高評価の理由は? 村上春樹の原作を換骨奪胎した驚異の脚本術<あらすじ 考察 解説>
映画「寝ても覚めても」東出昌大&唐田えりかの評価は…。濱口竜介監督が見せる演出の手腕<あらすじ 考察 レビュー>
宮崎あおい、急逝した巨匠との思い出を語る。青山真治『EUREKA ユリイカ』イベントレポート【第35回東京国際映画祭】

1 2
error: Content is protected !!