潜在意識の中で考えていたテーマ
―――舞台となった村の話に戻りますが、際立って背の高い建物がなく、周囲を覆う畑を360度見渡すことができる場所になっていますね。ロケ地を福岡県田川郡にした理由はなんだったのでしょうか?
「僕が福岡出身っていうのもあって、地元の方や、フィルムコミッションの協力が得られたので、『古川さんを連れて行こう!』となりました。あとこれは副産物ですが、メインの役者さん以外は福岡にお住いのキャストで固めることができたので、彼らの方言が作品に良い影響を与えてくれたと思っています」
―――プレス資料によると、今回『誰かの不幸の上に、誰かの幸せが成り立っている』というテーマで映画をお作りになったとのことですが、短編作品『現実を受け入れるべくして夢を見る』も、世にはびこる不条理に対して不条理であることを知りつつ、それから逃げられないことの恐ろしさを描いているように感じました。今申し上げたテーマは、下津監督にとって重要なものなのでしょうか?
「そうですね。日頃からずっと考えていたわけではないですが、潜在意識にずっとあったのだと思います。アウトプットする時に考えていると、そういうテーマがよく出てくるんですよね。だから、仰ってくれたように、短編も『みなに幸あれ』も根底のテーマは同じだと思います。
悲しい現実を受け入れつつ理想を描き続けるっていうことが一番なのかなと。中盤のいじめの描写ではそういった意味を込めました。現実だけ見ていても悲しくなるし、悲しい出来事を無くしたいと願う「理想」を持つのはいいと思うのですが、どちらかだけだと僕はダメだと思っているんです。
例えば、理想だけ見ていると、隠蔽という出来事が生じるのは避けられないと思うんです。それよりも、『いじめは誰にでも起こりうるし、どこでもあるよね』って、現実を一旦受け入れることができれば、隠すことなく『いじめが起きました』って言える。
世の中のいじめを全て無くすことはできないかもしれないけど、目の前のいじめは無くせる。「理想」に一歩ずつ近づいていくという姿勢がベストなのかなと思っています。
古川さんは、今言ったことを作品の中で体現していて、ラストシーンの表情は色んな解釈に開かれていると思います」