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「アクションの声がかかる時、演技はすでにスタートしている」
菅原浩志監督からかけられた言葉

写真:宮城夏子
写真宮城夏子

 

―――昨年『あつい胸さわぎ』の公開時にインタビューをさせていただいた際、モノローグについてお話されていたことが印象に残っています。今回の映画でもモノローグがとても重要な役割を果たしていますね。

「知里幸惠さんが書かれた『アイヌ神謡集』の序文を読ませていただきました。アイヌ文化とアイヌ民族の素晴らしさ、差別によって生じる怒りと悲しみ、アイヌ文化の今後の行く末…そのすべてが詰まっている文章です。知里さんの気持ちがすべて込められているといっても過言ではないと思います。

その分責任も重大ですし、どうしたら序文から感じとれる包容力を表現できるのか、監督と相談させていただきながら何回もトライしました」

―――OKテイクに至るブレイクスルーは何だったのでしょうか?

「ちょうどその頃、私の祖父が体調を崩していまして。祖父に優しく語りかけるように読んでみたところOKをいただきました。ただし、そこに辿り着くまでは本当に苦労しました。

私、語尾がバツンと切れる癖がありまして。余韻を残すように序文を読み上げるのがすごく難しかったです」

―――最終的にお芝居にOKを出すのは監督だと思うのですが、そこに至るまでの試行錯誤をご自身の言葉でしっかりと落とし込んでいるのが素晴らしいと思います。菅原浩志監督はどのような方でしたか?

「凄く優しくて、情熱がある方です。印象に残っているのが、撮影する時に『よーいスタート!』と言うのではなくて、静かに『よーいアクション』と始めるんですよ。『なぜですか?』って聞いたら、『アクションの声がかかる時、演技はすでにスタートしている。あとはカメラの動きが加わるだけ』と仰いました。

今回の映画は派手な出来事を描いているわけではなく、観る方にジワジワと色んなことを考えさせるような作品だと思っていて。菅原監督の『アクション』を告げる小さな声は、作品の雰囲気にピッタリ合っていて、とても演じやすかったです」

―――明治以降、アイヌの人々は政府による同化政策によって穏やかな暮らしを奪われることになります。吉田さんが演じたテルを始めとした若者は、上の世代に比べて、アイヌ文化と和人の文化、双方への理解が深いゆえ、差別に耐えかねて、和人の視点に立って自身のアイデンティティを否定するというメンタリティーに陥るケースもある。本作はそうした点もしっかりと描いていますね。

「テルにとって妹のような存在であるモトが、『お姉ちゃんいいな、学校に行けるの』って言うシーンもそうですよね。和人への憧れというか、和人になって差別を受けたくないという気持ち。一三四もそうですよね。そういう感情に見舞われることってテルにもあったと思うんです。

和人として生まれていたらどんなに良かったかと。ただそうした気持ちに負けず、学校に行って、和人に混じって戦う選択をしたテルは本当に強い。

実際、知里幸恵さんがそうだったと思うのですが、テルは勉強するためだけに学校に行っているわけじゃなくて、アイヌが認められるために“戦いに行っているんだ”っていう気持ちが強く表れていると思いますね」

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