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「“喪失”にどうしても惹かれてしまう」映画『夢見るペトロ』『いつもうしろに』田中さくら監督、独占ロングインタビュー

text by 福田桃奈

田中さくら監督により全編16mmフィルムで撮影され、第16回田辺・弁慶映画祭で審査員特別賞と俳優賞を受賞した短編作品『夢見るペトロ』。いくつもの選択と決断の中で、少しずつ前を向こうとする少女の”心の旅”を描いた同作と、過去や思い出たちとの“出会い直し”を描いた『いつもうしろに』が、3月2日(土)より渋谷のシアター・イメージ・フォーラムにて上映される。今回は、田中さくら監督に独占ロングインタビューを敢行。作品制作の裏側から、プライベートな話題まで、たっぷりとお話を伺った。(取材・文:福田桃奈)

「曖昧なものを曖昧さをもって描いている感覚があった」
16mmフィルムでの挑戦

映画『夢見るペトロ』
映画夢見るペトロ

ーー『夢見るペトロ』は、兄が結婚するのを期に、主人公が幼い自分と向き合うことや、そばにいたものたちが遠く離れてしまうことなど、他愛のない日常が変化してしまう恐怖心に対して、幻想へと逃れようとしながらも、そんな自分と徐々に向き合う物語です。どんなことから、この物語が生まれましたか?

「この脚本を書いていたのが大学の卒業が迫っていた時期で、自分の中で大学の友人や大切な仲間との関係性の終い方が難しいと感じていました。離れて行ってしまうことへの折り合いのつけ方を考えていた時期に書いたことが大きく影響していると思います」

ーー全編16mmフィルムで撮影されていますが、フィルムの粒子感と陰影が、物語の曖昧さや登場人物たちの幽玄さを表現していると感じました。今回フィルムを使用するにあたり、クラウドファンディングをされて臨まれたそうですが、実際に撮影してみていかがでしたか?

「これまで映画を観る時に16mmフィルムの映画ということを意識して観たことがなく、全然分からない中での挑戦だったのですが、同録(撮影と同時に音声を録音すること)ではなかったので、音楽を流しながら撮影したり、フィルムの回る音が聞こえてきたりと、現場の空気感に自分自身も影響を受けながら撮影していた感じがします。決められたスケジュールの中で決められたことを撮っていくのは基本ではありますが、曖昧なものを曖昧さをもって描いている感覚がありましたね。

実際、予算が無いから『一発でお願いします』みたいな中で、みんな緊張してたんですけど、フィルムの“カラカラカラ”という音が、現場の張り詰めた空気をふわっと溶かすような、物理的にその空気感の中にみんな身を置くことができたと思います」

ーーそれは映像から物凄く伝わってきました。撮影監督にこれまでにもインディペンデント映画を多く撮影されている古屋幸一さんが入られていますが、古屋さんに脚本を見せたことで大きな変化が生まれたそうですね。どのようなことが変わりましたか?

「セリフがかなり減りましたね。抽象的な物語なので、私も不安でセリフを書き足したり、言いたいセリフが沢山あって詰め込んでいたのですが、古屋さんが『そんなに言わなくても、今回の感じだったら伝わると思うよ』と言ってくださって。古屋さんが言うなら間違いないんだろうと、そこからだいぶカットしていきました」

ーーでは、“ト書き”(セリフ以外の登場人物の行動や場面が書かれていること)が多い台本だったのでしょうか?

「そうですね。セリフがある段階のものもキャストさんたちに見せていましたし、セリフは無くなったけど、セリフに付随する“間”が全て無くなったわけではなく、どういう真意があって間が作られているかという説明はしていたので、『こういうセリフがあったんだろうな』という感じは残っていましたね」

ーー監督ご自身も普段フィルムで写真を撮られていますが、フレーミングなど撮影に関して、古屋さんとディスカッションはされましたか?

「そこはかなり時間をかけてお話させていただきました。シーンごとに、『こういうショットを撮りたい』というものがあったので、『全編を通して、こういうことをコンセプトとしたフレーミングにしていきたい』というようなことは話させていただきました。

もちろん現場で作っていくものではありますが、ある程度の制約や軸がないと選べなくなるので、あらかじめ自分の中でマップは作っておいて、その決めた範囲の中で古屋さんと相談しながらカメラワークを決めていくという感じでした」

ーーフィルム撮影となると、現場で確認できない怖さがあったのではないですか?

「そうなんですよ。それが本当に怖くて『これ大丈夫かな?』って…(笑)。確認できないのは本当にドキドキで、だからと言って余分に撮ることもできないので、かなりみんなの意志がギューと凝縮されたワンカット、ワンカットになっていたと思います」

ーーその集結した意志が空気感となり、緊張感として映画全体に冷たい空気のように張り巡らされているように感じました。実際現像したものを観た時の感想はいかがでしたか?

「いやぁ、現像してから観るまで結構掛かったんですけど、撮影時のあのままの感じだなぁと…。何がデジタルとそんなに違うのか上手く言語化できないのですが、あの時の空気感とか湿度まで思い出せる感じがしましたね。

時間が経ってるっていうのが大きいのかもしれませんが、フィルムの粒子が動いてる分、モヤモヤっとしてる部分が多いはずなのに、凄くはっきり映し出されているものがあるなと感じました」

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