「全シーン『心で泣いてくれ』と言われた」映画『i ai』主演・富田健太郎、単独インタビュー。マヒトゥ監督に分身を託されて
GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが初監督を務めた映画『i ai(アイアイ)』が3月8日から公開。本作で主演を務めた富田健太郎さんにインタビューを敢行。撮影に挑むにあたり、監督から受けた言葉、そして共演の森山未來さんのこと。さらに、撮影から2年半の時を経て変化したことなど、お話を伺った。(取材・文:山田剛志、福田桃奈)
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【富田健太郎 プロフィール】
1995年8月2日生まれ。東京都出身。主な出演作に、『サバイバルファミリー』(17年/矢口史靖監督)、『モダンかアナーキー』(23年/杉本大地監督)、ドラマ『来世ではちゃんとします』(20年/テレビ東京)、ドラマ『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(21年/WOWOW)、ドラマ『初恋、ざらり』(23年/テレビ東京)、舞台『ボーイズ・イン・ザ・バンド ~真夜中のパー ティー~』(20年)、舞台『雷に7回撃たれても』(23年) などがある。本作オーディションで応募総数3,500人の中から主演に抜擢され、話題を集める。
「心の血液の温度がどんどん上がっていくような感覚」
3,500人の中から主演に抜擢されて。
――今回、富田さんは約 3,500 人が参加したという“全感覚オーディション”を経て、本作で主演を務めることになりました。オーディションの内容はどんなものでしたか?
「内容は普段のオーディションとそんなには変わらなかったのですが、職業問わず多くの人 が参加していて、そこが一般的なオーディションと違うところでした。マヒトゥ監督の声明文に心打たれた人たちが一斉に集まって…まさに“全感覚オーディション”という言葉にふさわしい機会でした」
――富田さんは、マヒトゥ監督の声明文のどんなところに惹かれたのでしょうか?
「僕、もともとGEZANの音楽はよく聴いていて、マヒトさんの言葉に触れてはいたんです。その中で、声明文に書いてあった『私と共犯者になってください』っていうフレーズに心打たれました。
まだ出会ってすらいない、見ず知らずの人に対する優しさを感じましたし、簡単な言葉でないからこそ伝わる、切実な覚悟を声明文全体に感じて、『この人に会いたい』と思ったのがオーディションを受けたきっかけでした」
――脚本を読まれた時、どんな気持ちになりましたか?
「主演の最終候補に残っていると言われた段階で、初めて脚本を送っていただいたんですけど、僕の想像を超える内容でした。物語の質量が高くて、詩的な表現に目を惹かれて。
それと同時にどこか懐かしもあって、心の血液の温度がどんどん上がっていくような感覚を抱きました。何よりも、自分が演じる役の気持ちで読んだ時に、わかる部分とわからない部分が混在していて。監督と会って話がしたいと思ったのを鮮明に覚えています」
―――その“わかる部分とわからない部分”というのは、具体的にはどんなところでしたか?
「先ほども言ったように、この映画の脚本は、生きることや死ぬことにまつわる詩的な表現が随所にあって、一様には解釈できない部分も多かった。自分は割と本を読むタイプなので、難解な表現が指し示していることを想像することはできたんですけど、それが合っているのかどうかいえば心許ない…というのが正直な気持ちでした。
オーディションを受ける前にGEZANのドキュメンタリー(『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』)を観たんですけど、演じるにあたり、マヒトゥさんが伝えようとする綺麗事じゃないメッセージの内実をもっと知りたいという気持ちになりました。とはいえ、それを伝える役目を担うということには責任が伴う。
決まった時は純粋に嬉しかったんですけど、そこで終わりじゃない、自分が作品を通してメッセージを残さなきゃいけない、という気持ちが一気に押し寄せてきました」
―――役が決まってから撮影に至るまでの間でどのような準備をなさいましたか?
「僕が演じたコウが所属するバンド“THIS POP SHIT”のメンバーと監督とで何回か会う機会がありました。メンバー4人で話して、一緒に飯食って、スタジオに入って、初めてアンプを繋いで、マヒトゥ監督が作ってくれた音楽をかき鳴らして『うわー』って。そういうところから始めていきましたね」
―――バンドメンバーが集まって練習している時、マヒトゥ監督はどんな様子でそれを見ていたのでしょうか?
「ニヤニヤしていましたね。『やっといて』みたいな感じで。僕らが練習する傍らでTHIS POP SHITの曲を考えたりしていました」
―――もしかしたら、富田さんたちが練習している様子にインスパイアされて曲作りをされていたのかもしれないですね。
「そういう側面もあったのかもしれないですね。僕が凄く嬉しかったのは、マヒトゥさんの監督としてスタンスが形式に縛られていなかったこと。本作の現場は良い意味でルールがなかったんです。
もちろん、ルールがないと頼るところがないし、逃げ道もないから凄く不安になるんですけど、マヒトゥさんが妥協を許さない姿勢で僕たち役者陣にとことん向き合ってくれたおかげで、心も開けて、それが良い空気感となって、作品に流れ込んだのかなって思います」