「スクリーンに映る自分から問いかけられている感覚になった」
映画『i ai』の現場を経て変化した思考
―――ラストの独白のシーンは、コウの想いと富田さん自身の想い、カメラの後ろにいる監督の想いが渾然一体となっていると思いました。ラストシーンに臨むにあたり、マヒトゥ監督から伝えられたことはありましたか？
「このシーンで特別これ、という助言は無かったかもしれないですね。ただ毎日、全シーン『心で泣いてくれ。今見てる景色の奇跡に慣れちゃダメだ』と言われていました。『甘えちゃダメだ。切実に』という。最後の独白はそうした想いの集大成だったと思います。
実は、オーディションの時もあの独白を読んだんですけど、その時はあくまで自分のことに当てはめて読むことしかできませんでした。
でも本番では、自分だけじゃなくて未來さんをはじめ『i ai』に登場するすべての人たち、撮影を通して出会った風景や出来事、様々なものを背負って言葉を発する気持ちになって、自分自身の変化に驚きました。だからこそ、完成した作品を観た時、スクリーンに映る自分から問いかけられている感覚になったのかもしれません」
―――『i ai』の現場を経験することで、役者として、あるいは人として、富田さんの中で何が変わりましたか？
「あれから2年半くらい経って、撮影の日々を思い出すことも増えました。ただ、それは自分にとって複雑なことでもあって。『過去を背負って前に進んでいく』ということを、他ならぬコウが体現しているのにかかわらず、過去を反芻している自分がいて。
そこは自分との戦いなんですけど、そういう後ろ向きの気持ちになった時、心の中に卵として存在していたマヒトゥさんの言葉が孵化する瞬間があって。『あの時の言葉ってそういう意味だったのか』みたいな。本当にいろんなものをあの時に植え付けてもらったなと思います」
―――演技に対する心構えも変わりましたか？
「そうですね。“逃げないようにしよう”とより一層思うようになりました。良い俳優になるために役作りを頑張るといったことは当たり前のこと。その先を見据えて、じゃあ富田健太郎に何が表現できるんだろうっていうのを最近はずっと考え続けています。
そのためには毎日を一生懸命、切実に生きるしかない。こうして取材をしてくださる方に対しても、しっかりと自分の言葉で想いを乗せて喋りたいし、“なんとなくで終わらせない”と思いながら日々を生きていますね。
それで自分の芝居がどう変わっていくのか、具体的にはわかりませんが、時が経って、過去を振り返った時に、大きな変化に繋がっているんじゃないかなと。この作品に携わっていなければそういう考えになっていなかったと思います」
―――富田さんの誠実で真っ直ぐなお言葉に触れて、『i ai』の見え方がより深いものに変わると同時に、役者としての今後に期待せずにはいられません。 完成後、マヒトゥ監督からかけられた言葉で印象的だったものはありますか？
「つい最近なんですけど、『富田の2年半の歩みは遅かったな』と言われて、結構喰らいましたね…（笑）」
―――やっぱりちゃんと見てくれているんですね。
「コウはマヒトゥさん自身でもあるし、僕に分身を託してくれたわけだから、どこか他人事じゃないんだと思います。期待なのか叱咤激励なのか、過去の自分に対する怒りなのか愛情なのか。色んな感情を含んだ言葉をかけてくれるので、どうしたって頭から離れなくなってしまう。だからもう共犯者どころじゃないですよ（笑）」
（取材・文：山田剛志、福田桃奈）
ヘアメイク：濱野由梨乃
スタイリスト：網野正和
【作品情報】
タイトル：『i ai』
出演：富田健太郎、さとうほなみ、堀家一希、イワナミユウキ、KIEN K-BOMB、コムアイ、知久寿焼、大宮イチ、吹越 満、永山瑛太、小泉今日子、森山未來
監督・脚本・音楽：マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影：佐内正史 劇中画：新井英樹
主題歌：GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」（十三月）
プロデューサー：平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
美術：佐々木尚 照明：高坂俊秀 録音：島津未来介
編集：栗谷川純 音響効果：柴崎憲治 VFXスーパーバイザー：オダイッセイ
衣装：宮本まさ江 衣装（森山未來）：伊賀大介 ヘアメイク：濱野由梨乃
助監督：寺田明人 製作担当：谷村 龍 スケーター監修：上野伸平 宣伝：平井万里子
製作プロダクション：スタジオブルー
配給：パルコ
©STUDIO BLUE
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