大胆さと繊細さ
あらゆる役を演じ分ける柔軟性
また、次いで公開された『正欲』では人に知られたくない性的指向を持つ佳道を好演。「普通とは何か?」を問うてくる作品において、佳道は人とは違う自分に孤独を抱えながら、社会に紛れて生きる。
佳道は、遠いようで近い存在だ。マイノリティとされる人たちの生きづらさと定義してしまうと難しくなりがちな自分事化も、程度は違えど、わたしたちにも周囲とのズレによる違和感やそこから生まれる孤独があることを、ふと気づかせてくれる気がした。それはきっと磯村が、自身のなかに見つけた佳道との共通点を増大させて見せてくれたからに他ならない。内側に向き合ったことで表出された、まさに体当たりの演技と言えるだろう。
そして、磯村の驚くべきは、『きのう何食べた?』での恋人へわがまま放題するもどこか憎めないジルベールや、現在放送中の『不適切にもほどがある!』で突如上半身裸になるなど振り切れた不良・ムッチ先輩(真彦との二役)をも演じてしまうことだ。
思えば磯村に対して、「主演を食う」という表現がされているのをあまり見かけないように感じる。明らかな難役を演じ、主役と同等かそれ以上の存在感を発揮しているのに、だ。
それはおそらく、彼が与えられたなかで縦横無尽に動き回りながらも、自分のすべきはここまで、と丁寧に線を引いてを全うしているからではないだろうか。大胆さと繊細さを絶妙に出し入れする磯村だからこそ、わたしたちは目が離せなくなるのだ。
磯村が主演作で世間を騒がせることも期待したいが、これまでのように様々な難役で作品を彩っても欲しい。いずれにしても、磯村勇斗が面白い俳優であることは間違いない。
(文・あまのさき)
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