山下リオ、SUMIRE
それぞれの役づくりのアプローチ
―――どちらの作品も、主人公2人の過去が映画に深い影響を与えていますね。『記憶の居所』の「味の話」だと山下さん演じる唄とお母さんとの不和。『朝をさがして』では、SUMIREさん演じる美琴がコロナ禍で夢を諦めたこと。いずれも脚本では十分に説明されていなかったかと思います。脚本の余白の部分をどのように想像するのかが、演じる上で重要なポイントになったのではないでしょうか?
山下「私の場合、演じるキャラクターが生まれてから現時点に至るまでの人生を一通り書き出すという作業を、ほぼ毎回やっています。ただ、そんな大それたことを書いているわけではなく、子どもの頃、カブトムシを捕まえることに夢中だったとか、しょうもないことだっりするのですが。
それを直接的にお芝居に出そうとは思わないですけど、現場で不安にならないように自分なりに役の思い出をギュッと詰めておく。これは今回の映画でも変わらずやりました」
―――唄の実家は農家なので、カブトムシの話が出てきたのでしょうか。面白いですね。SUMIREさんはどのようなことを意識して役づくりに取り組まれましたか?
SUMIRE「今回、クランクイン前に監督が『着飾りすぎず、SUMIREさんらしく演じていただいて構わないです』と言ってくださり、不安を和らげてくださいました。
一方で、自分なりに役に近づくために、美琴はどんなインテリアが好きなのか、好物は何なのか、といった台本に書かれていない部分にもイメージを膨らませて、役と自分を繋げるような作業をしました」
―――今回の作品にかぎらず、役者であるかぎり、心理的に理解しがたいセリフやアクションに取り組む機会も多いと思います。お2人がそういう時に意識されていることはありますか?
山下「そうですね、人間って意識と無意識の両方があって。時には自分でもわからない行動をとったり、理屈の通らないことを口にしてしまうことってあると思うんですよ。当たり前
ですけど、実人生で経験したことのないことは山ほどあって、自分に当てはまらないからといって否定したら終わりなのかなと。
一見理解しがたいセリフでも『こういうこともあるんだ』と事実を受け入れられる状態でいることを心がけていますね。そうすると、今まで感じたことのなかった新しい感情を発見する瞬間があって。それに乗っかっていくイメージです」
SUMIRE「自分の役者人生はまだまだ短いのですが、短いなりにも『こんなセリフ、普通は言わないな』とか『何でこの行動をとるのだろう』と感じる場面も、台本を読ましていただ
く中で思うことは少なくありません。それでも役に近づく必要がある。
先ほどの話に通じるのですが、現場に入る前に、演じる役がやっていそうなことをするとか、それを日常に取り入れて自分の体に染み込ませるじゃないですけれども、アクションが多い役であれば日々の運動量を増やしてみたりして、外側から役を作っていく。役を体に染み込ませる努力はするようにしています」