SUMIRE「細かい部分も汲み取ってもらえたら嬉しい」
常間地裕監督の現場を経験して
―――撮影前の準備について興味深いお話を伺ったところで、撮影現場のエピソードについても伺いたいと思います。山下さんからみて、『記憶の居所』の現場はいかがでしたか?
山下「今回の映画はキャスティングも凄く良くて。私にはお兄ちゃんはいませんけど、兄役の小久保寿人さんとは、クランクインしてすぐに本当の家族のような雰囲気になれました。それは母役の磯西真喜さんにも言えて。それは常間地さんの現場だからこそ作れた空気感なのかなと思います」
―――常間地監督は、演者にスッと作品の世界観に入ってもらうためにどのような点を意識されましたか?
常間地「第一に役者さんそれぞれの力が凄い、ということが言えると思います。僕がやるべきことは、役者さんの違和感を取り除くことだと思っていまして。セリフも話し合った上で必要とあれば柔軟に変えますし、『何歩進んで振り返ってこのセリフを言ってくれ』といった演出もしません。役者の動きをできるだけ制限したくないという気持ちが強いのです。
もちろん、作品の方向性や指針はしっかりと提示していかないといけない。そのために、役者さんと対話をする時間や共演者同士で一緒にいてもらう時間を設けたり、ロケ地に馴染んでもらう時間を作るとか、その辺は尊重したいなと思って現場に臨んでいます」
―――役者さんを動かす演出をなさらない分、登場人物の位置関係とカメラポジションが作品を深く理解する上で重要なのではないかと思いました。例えば、『朝をさがして』では、石段の上で恋愛関係にない幼馴染の男女2人が対話をします。座り位置を真横ではなく、ちょっとずらしていますよね。細かいところですが、そういったところもお芝居に影響を与えているのではないでしょうか?
SUMIRE「遼太郎と美琴の距離感って友達以上恋人未満という言葉でも括れない、分からない人には分からない、絶妙な関係性ですよね。どちらかというと家族に近いというか。そんな絶妙な関係性だからこその座り位置なのかなと。
実際、2人が横並びになる瞬間って歩いている時以外ほとんどなかったと思います。観てくださる方にはそういう細かい部分も汲み取ってもらえたらすごく嬉しいですね」
―――常間地監督は、美琴と遼太郎の位置関係についてどのように考えていましたか?
常間地「ロケハンをしている段階で2人は横に並ばないだろうとは何となく思っていました。役の心理を考えた時に、居心地の良い座り位置がああいう形だったのかなと。恋愛に収斂しない男女の絶妙な関係性を描くにあたって、座りの距離とか会話の空気感、テンポはすごく大事にしたいと思っていましたね」