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背中のショットに込めた思い

写真:武馬玲子 常間地裕監督
常間地裕監督 写真武馬玲子

 

―――『記憶の居所』『朝をさがして』、両作とも人物の背中を捉えたショットがとても印象に残りました。「味の話」のファーストカットも背中からお撮りになっていますね。

常間地「背中が好きなんですよ。顔よりも背中の方が物語る力は強いと思っていて。出立ちで語るといいますか」

山下「結構迷っていましたもんね、ファーストカット。背中がどうこうって話していたのを憶えています(笑)」

常間地「そうでしたね。病院のシーンの入り方はちょっと迷いましたね。山本奈衣瑠さんが演じた役が一瞬主役に見えてもいいという思いがあって、いかにして山本さんの演じた役から山下さん演じる唄に想いを繋げるか、といったことは考えていたと思います。

背中を映したカットは本編冒頭の美術館に入っていくシーンもそうですし、『朝をさがして』でも吉祥寺の繁華街を美琴と後輩が歩くシーンにもあって。振り返ると、初長編も含めて、要所で撮っているなと思います」

―――「味の話」では山下さん演じる唄が認知症を患っている母に自身の名前を告げる、クライマックスと呼べる場面も、背中からのロングショット。それもワンシーンワンカットでお撮りになっています。音声はアフレコですか?

山下「現場の音ですね。音声さんはたしか『アフレコで』って言っていましたよね。それで横をチラっと見たら、監督が『僕はこれ(現場の音)で』って(笑)」

常間地「そうでしたね(笑)。車が横を通っていますし、アフレコで録り直した方がクリアではあるんですけど。あのテイク自体1発OKで、現場で生まれたトーンを画面見ながらアフレコで再現することはできないし、車の音も画の中に車体が映っているので違和感ないんですよ」

山下「背中の話に戻りますが、実は私、顔を撮られるのがあまり好きじゃないんです…と言いうのは職業的におかしいかもしれませんが(笑)。

ご指摘の通りこのシーンではカメラが遠くにあって背後から撮っているので、お母さんの顔は映っていないんですけど、私から見たお母さんの顔が凄く好きだったんですよ。これを見られるのは私だけの特権なんだと思って。逆にお母さんにしか見ることができない私の顔もある。だから『はい!映ってなくて満足(笑)』とか言って(笑)」

常間地「最初から背中で行きたいなって思ったんですけど、お芝居を見たら背中で十分に物語っているし、声もそうだし、寄りを撮る必要性をまったく感じなかったんですよね。仮に押さえで顔を撮っていたとしても多分使わなかったと思います」

山下「常間地さんって良い意味で監督としての存在感が無いんですよ。だから『あれ?』っていう間に撮り終わったりするから。本番とそれ以外の時間の境界線が曖昧なところが私はすごい居心地が良くて。

中には怒鳴るように『よーい!』と叫ばれる方もいらっしゃいますけど(笑)。常間地監督の現場は、始まるぞ!っていう緊張感が全く無く、リラックスした空気を形作っていて。今回の映画ではその空気感がちゃんと映っている気がします」

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