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「ビクトル・エリセ監督の作品に影響を受けた」映画『霧の淵』村瀬大智監督インタビュー。世界各国の映画祭で話題

text by 山田剛志

実在の老舗旅館を舞台に、旅館を営む家族の人間模様を静謐なタッチで描いた、三宅朱莉、水川あさみ、三浦誠己出演の映画『霧の淵』が4月6日(土)よりユーロスペースにて先行上映、4月19日(金)よりTOHOシネマズ日比谷シャンテほか全国順次公開される。今回は、本作が長編商業映画デビュー作となる村瀬大智監督のインタビューをお届け。作品に込めた思いを伺った。(取材・文:山田剛志)

「実際に川上村に足を運んで、滞在した」
シナリオづくりのブレイクスルーとなった旅館の女将の話

© 2023“霧の淵”Nara International Film Festival
© 2023霧の淵Nara International Film Festival

―――本作はなら国際映画祭の「NARAtive」プロジェクトとして制作された作品です。こちらは企画コンペであったとのことですが、当時のプロットは完成した作品と同じような骨組みだったのでしょうか?

「それが最初のプロット段階と完成した作品では、“イヒカ”という主人公の名前と旅館を舞台にしていること以外には共通点はなく、制作の準備を進めていく過程で物語が変わっていきました。

今回、制作するにあたり、舞台となった川上村をロケ地にすることがあらかじめ決まっていました。制作が決まると、実際に川上村に足を運んで、滞在して、シナリオ作りを進めていきました」

―――川上村にはどのくらい滞在されていたのでしょうか?

「私は滋賀県の南部に住んでいまして。川上村までは名阪国道を車で走って2時間半くらいで行けるのです。準備期間中は何度も自宅と川上村を往復して、住民の方々と交流をさせていただきました。

住民の方々とは映画の話をするわけでもなく、柚子の収穫のお手伝いをしたり、漁獲した鮎を大きさごとに仕分ける作業を手伝ったりして。住民の皆さんは僕のことを『監督』と呼んでくれてはいたものの、使いぱしりだと思っていたのではないかな(笑)」

―――住民の方々と交流を重ねることで、シナリオも徐々に具体性を帯びていったと思うのですが、「これでいける」とシナリオ完成のブレイクスルーとなった出来事はありますか?

「実は私、学生時代はシナリオを重視するのではなく、即興的なスタイルで映画を作っていたのもあり、シナリオ作りは苦難の連続でした。シナリオ作りのブレイクスルーとなったのは、舞台となった旅館・朝日館の女将のお話を伺ったのがきっかけでした。

本作で水川あさみさん演じる咲は村で生まれた人間ではなく、三浦誠己さん演じる良治と結婚して朝日館にやってきた、元々は外部の人間。それが、ある理由で旅館を切り盛りすることになるわけですが、これは実際の朝日館の女将さんの境遇でもあります。

彼女は旅館の亭主の次男に嫁いで、村にやってきて、一生懸命働いているうちに旅館の業務がすべてできるようになり、女将を務めることになったというわけです。女将の旦那さんは市役所で働いていらしたとのことで、良治の設定と重なりますが、その点はまったくの偶然です。ちなみに女将は、映画冒頭で水川あさみさん扮する咲と座ってお話ししている女性です」

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