「オーディションの部屋に入ってきた瞬間にビビッときた」
主演を務めた三宅朱莉との出会い
―――今回、本作が俳優デビューとなる三宅朱莉さんを主演に抜擢されました。キャスティングの経緯を教えてください。
「キャスティングの話に入る前に、イヒカという登場人物について説明させてください。完成した作品ではイヒカは口数が少なく、寡黙な少女ですが、最初のシナリオ段階では、相米慎二監督の『お引越し』(1993)で田畑智子さんが演じたヒロインのような、快活な女性だったんです。
当時、僕、小学校で働いていまして、イヒカと同世代の子供たちと接する機会が多かったのですが、もちろん全てに当てはまるわけではありませんが、僕から見た彼/彼女たちは、スマートフォンが生活必需品であって、処理しきれないくらいの情報に常にさらされているからか、どこか憂いがあって、夢や希望に胸を高鳴らせるような子は多くなかった。そんなこともあって、イヒカの人物像も変化していきました」
―――今おっしゃったような人物像を体現できる方をキャスティングしようと思われたわけですね。
「そうです。ただ、それは思ったよりも難航をきわめました。オーディションを何度かやらせていただいたのですが、幼少期からお芝居をしている子が多く、ハキハキ喋りますし、目にはキラキラとした輝きがある。
でもイヒカの人物像はそうではない。さすがにハードルが高いので、イヒカの人物像をまた練り直そうと思っていた矢先、出会ったのが三宅さんでした。オーディションの部屋に入ってきた瞬間にビビッときて、『この子だ』って」
―――運命的な出会いですね。
「話し方もどこか気だるげで、何より目力の強さに惹かれました。とはいえ、キャスティングを決めて、冷静になった頃、彼女が演技経験を積んでいないことに遅まきながら気づいて、少し不安になったりもしました。でも、現場では完璧でしたね。僕が何かを言うことはなかったです」