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「川口大三郎リンチ殺害事件」を追うドキュメンタリー映画『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』予告編&コメント解禁

text by 編集部

約50年前、早稲田大学で起こった内ゲバ殺人事件「川口大三郎リンチ殺害事件」を契機に、各党派でエスカレートしていった“内ゲバ”の真相を、当時の関係者の証言ドキュメントと鴻上尚史・演出の短編劇によって立体的に描き出したドキュメンタリー映画『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』。今回、本作の予告編と、コメントを解禁する。

“新左翼闘争の時代”を描いた代島治彦監督最新作

『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』
©ゲバルトの杜製作委員会
『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』
©ゲバルトの杜製作委員会

学生運動終焉期にエスカレートしていった“内ゲバ”を描いたドキュメンタリー映画『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』。

今回公開された本予告編の冒頭を飾るのは、元・日本赤軍の重信房子による時代のへの悔恨とも言えるコメント。他、田原総一朗、久米宏、金平茂紀といったその時代に若者だった識者から、理性と煩悶が同居するようなコメントも届いた。

【コメント一覧】

◆重信房子(元 日本赤軍)
この映画には革命のために尊厳ある生命を犠牲にした私たちの時代の闘い方の欠陥が描かれている。

◆田原総一朗(ジャーナリスト)
彼らは彼らなりに真剣にこの国のことを考えていたと思う。
だが行き過ぎた行動のために新左翼党派は壊滅することになった。
他にやりようがなかったのか。私のなかには残念な気持ちがある。

◆久米宏(フリーアナウンサー)
吉永小百合が 3 年前まで歩いていた文学部キャンパス
そこでひとりの大学生が殴り殺された
殺したのは“革マル派”だった
その後激しくなっていった内ゲバで 100 人以上が命を失った
殺すことで何かが解決したのだろうか

◆金平茂紀(ジャーナリスト)
証言者パート、劇作パート、メイキング・パートが相乗的にかみ合って、起きていたことをヒリヒリと浮かび上がらせていた。時代の狂気のせいにしてはならない。今につながるテーマだ。

◆太田昌国(民族問題研究)
現状の社会を批判し、夢や理想を語るからこそ、人びとの共感を得てきた〈革命〉の思想。いつしか、それは嘘と欺瞞に満ち、人びとの希望を打ち砕くような思想と実践に成り果てて、現在に至る――日本でも、世界でも。その腐臭に満ちた事態をもたらした根拠に迫らなければならぬ、この映画のように。〈革命〉に、本来の、真の息吹を吹き込むために。

◆森まゆみ(作家)
日本でも本気出せば、ここまでできるという証左である。音楽もすばらしい。最初、ドラマ仕立てのシーンが出てきて、「あれ、また嘘くさい再現ドラマかよ」と思ったが、劇パートの役のオーディションや、そこでの学生と鴻上尚史さんとの対話など、背景をばらすことで、時代を今につなげることができた。革マル派の恐怖暴力支配に立ち上がった学生たち。本も良かったが、映画の方が視覚に訴えるものがあるのか、ずっとわかりやすい。同時代のワセダに生きた私が長い間待ち望んでいた映画。できるだけ多くの人に見てほしい。

◆マーク・ノーネス(映画研究家・ミシガン大学教授)
「浅間山荘」はしばしば日本の政治シーズンの血なまぐさい結末の象徴として立つが、その壮観さはなぜか内ゲバという衝撃的に広がった慣行を吸収し(そして隠蔽)してしまう。『ゲバルトの杜』では、代島治彦──私たちの時代の情熱的な年代記者が、一件の拷問と殺人事件に圧倒的な明るい光を当て、その全体的な現象とその不気味な心理を照らし出す。

◆石坂健治(東京国際映画祭シニア・プログラマー/日本映画大学教授)
1980年の春に早稲田大学第一文学部に入学した一人として、戸山キャンパスの構内でまず目にしたのは教室や廊下や階段のあちこちが破壊された不穏な風景、何かが終わったまま投げ出された風景だった。バブルに向かう賑やかな世相の中で、そうした傷の来歴をもはや顧みようとはせず、私たちはシラケ世代と呼ばれた。いま、同世代の代島監督はシラケることなくあの時代を追及している。本作を観て、記憶の喉に刺さった小骨のままだった不穏な風景ともう一度対峙することになった。同時に、あのころ早大演劇研究会から出現し、80 年代の演劇界を牽引した「第三舞台」の主宰だった鴻上尚史が本作で再現ドラマ部分を重厚に演出しているのも興味深い。公演を夢中で追いかけた「第三舞台」の軽やかな笑いに満ちた華やかなステージの記憶はいまなお鮮やかだが、本作を傍らに置いてみると、新たな意味が生じてくるかもしれない。

【あらすじ】

約50年前の1972年11月8日、早稲田大学キャンパスで一人の若者が殺された。第一文学部二年生だった川口大三郎君。自治会を牛耳り、早大支配を狙う新左翼党派による凄惨なリンチが死因だった。

学生運動終焉期にエスカレートした“内ゲバ”の嵐。その死者は100人を超える。理想に燃えた当時の若者たちが、革命という名の下に肯定していった「暴力の論理」を今、解き明かす―。

★内ゲバ=内部ゲバルトの略。ゲバルトはドイツ語で「暴力」を意味する。一般的には日本の学生運動や新左翼党派間での暴力を行使した党派闘争を指す

【予告編】

映画『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』
5月25日(土)よりユーロスペースにて公開

『ゲバルトの杜 ~彼は早稲田で死んだ~』
©ゲバルトの杜製作委員会

【原案本】

「彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠」(著:樋田毅/文藝春秋)
不条理な暴力に私たちはどう抗えるのか―。内ゲバが激化した一九七二年、革マル派による虐殺事件を機に蜂起した一般学生の自由獲得への闘い、いま明かされる衝撃の事実とは。不穏な時代に翻弄され、立ち竦むすべての人に捧げる渾身のルポ。第 53 回大宅壮一ノンフィクション賞 受賞。著者・樋田毅も本作に当時の証言者の一人として出演している。

(2024/日本/134 分/日本語/カラー/DCP)
監督・企画・編集:代島治彦
撮影:加藤孝信/プロデューサー:沢辺均/音楽:大友良英
劇パート 脚本・演出:鴻上尚史/劇パート出演:望月歩(川口大三郎 役)、
琴和(女闘士 役)ほか/出演:池上彰、佐藤優、内田樹、樋田毅、青木日照、
二葉幸三、藤野豊、永嶋秀一郎、林勝昭、岩間輝生、吉岡由美子、大橋正明、
臼田謙一、野崎泰志、岡本厚、冨樫一紀、石田英敬
制作:スコブル工房/製作:「ゲバルトの杜」製作委員会(ポット出版+スコ
ブル工房)/宣伝:テレザ/配給:ノンデライコ
公式HP
X(旧 Twitter):@gewalt_no_mori/Facebook:@gewaltnomori/Instagram:@gewalt_no_mori

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