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「女の子に本気でやるって、こっちが弱く見えるじゃないですか」
森田想とのアクションシーンを振り返る

写真:武馬玲子
写真武馬玲子

―――『ケンとカズ』の作品風土は非常に乾いていたと思うのですが、本作は序盤から男たちの顔が汗でテカりまくっている。後藤さんが最初に登場するシーンも例に漏れずめちゃくちゃテカっています。本作では汗以外にも血液や吐瀉物など、人の体から液体が発せられる描写がすごく多いですよね。中でも重要なのは、葵が唾を吐きかけるアクション。前作とは違う演出をなさっていると思ったのですが、いかがでしょうか?

小路「そうですね。唾を吐くアクションに関しては、演出を務めたドラマ『闇バイト家族』でも同じ演出をしていて。山本舞香ちゃんに台本に無い『唾を吐いてくれ』ってアクションを伝えて、『分かりました』って言ってやってくれたんですけど、なんかあるんでしょうね自分の中で。言ってしまえばもっとも尊敬を欠いた行為と言いますか…」

―――失礼極まりない行為ですよね(笑)。

小路「19歳の女の子が大の大人、それもヤクザにやるっていう。1番バカにしてるじゃないですか。その面白さ」

後藤「でも、やられた方は、それがだんだん可愛らしくなってくると言いますか。最初はムカつくっていうより、よく分かんない感情になるんですよ。例えば相手が若い男の子だったら素直に『なんだこの野郎』ってなるんですけど、 そんなことされるとは予想もしてなかった若い女の子に唾を吐きかけられて、なんなんだろうと。多分辰巳もそうだと思うんですけど、 それがだんだん愛着につながってくるというか」

小路「そう。可愛らしさというかね」

後藤「そこが魅力でもあったような気がしますね」

―――撮り方的には切り返しですよね。アクションがあり、パッと変わると後藤さんの顔に唾が付着していると。唾の質感みたいなものは試行錯誤されましたか?

小路「水を含んでもらってバッとやってもらって、本編ではかなり抑えているカットを使ってるんですけど、もっとビチャーってめちゃくちゃ付いてるカットとかもあって。さすがにこれはちょっとやりすぎじゃないかって、1番ちょうどいいバランスのものを使いましたね」

―――アクションも対女性となると体力の差が大きいので、対男性の場合よりも難しかったのではないでしょうか?

後藤「最初は女性ですし、どうなるのかなと思ったんですけど、もう本気でやりました。もちろん力は入れていないんですけど、女性だからといって手加減するとかはなく。向こうも『本気で』っていう感じだったんで。とはいえ芝居としては自分に負荷がかかるように意識しました。例えば膝も結構血だらけになるぐらい、ぐちゃぐちゃになる感じでやっていましたね。テイクもかなり重ねましたよね」

小路「そうですね。1番最初に後藤さんが投げ飛ばしたりするところは何回もやってもらって。森田さんは一言も嫌だとは言わず、本気でアクションに取り組むガッツがすごかったですね」

後藤「そう。想ちゃんも『もっと強くしてください』と言ってくれていたんで、そうなると本気でやんないと相手にも失礼というか。あそこは葵からものすごい勢いで罵倒を浴びせられるシーンなので、女の子だから、あるいは若いからといってアクションが中途半端になっちゃうとおかしくなりますから。もっと言うと、女の子に本気でやるって、こっちが弱く見えるじゃないですか。そういうことをする男ってなると。別にそう見えても構わない、あるいは、そう見えた方がいいと思って。それは演出だと思うんですけど」

小路「そうですね」

後藤「それが彼女のキャラクターを作る一つのトリガーになると思うので。そこは意識しましたね」

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