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「1番思い入れがある映画なんで」
撮影から公開まで5年もの歳月がかかったワケ

写真: 武馬玲子
写真 武馬玲子

―――本作は2019年に撮影されて公開までに5年を要しました。それにはいくつか理由があると思いますが、根本的な理由はなんでしたか?

小路「追撮をして編集をして“本当にこれでいける”っていう着地点を探す作業に時間をかけたということに尽きますね。もっと何かあるんじゃないかっていうことを模索し続けて、今の形にようやく収まった。スタッフ、キャストには時間がかかってしまって本当に申し訳なく思っているんですけど」

後藤「最初は『また追撮ですか?』ってなったと思うんですよね、大変ですから。でも小路さんの諦めない気持ちが周囲に伝わって、逆にそうした苦労が映画の魅力につながっているんじゃないですかね」

―――役者さんとしては、監督の作品にかける想いは、撮影に臨む上で大きなモチベーションになりますよね。

後藤「そうですね。自分の場合はむしろこっちから『追撮したいです』って何回も言っていて。納得できるまでより良い表現を探っていく。そんな機会ってないじゃないですか。だったらやりたいなって」

―――後藤さんは2019年に現場に参加されてから、その後、ご出演された『全裸監督』の配信があり、2022年には映画初主演を務められました。現在に至るまでの5年間は役者として充実した期間だったのではないかと思いますが、そんな日々を過ごされている中でも『辰巳』の存在は常に心の中にあったのでしょうか?

後藤「ありました。1番思い入れがある映画なんで。何度も追撮しても諦めないわけですから。みんな思い入れがあるんじゃないですか、出演者は」

―――小路監督に伺いたいのですが、追撮と再編集を繰り返して「パズルのピースが埋まった」と思われたのはどの瞬間でしたか?

小路「実は毎回『これで埋まった』っていう手応えはなくて、まだどうにかできるんじゃないかってずっと思っている」

後藤「今も?」

小路「今も編集できるんだったら」

後藤「つい最近までやっていましたもんね」

小路「つい1か月前も『どうしても入れたい』っていうカットがあって。それをやると音響さんの作業がめちゃくちゃ大変で。そこをちょっと頼み込んで『これだけは』っていうことをやったばっかりなんで。たぶん家に素材があれば永遠にやっちゃいますね」

―――細部へのこだわりがぎゅっと詰まった映画になっていますよね。

小路「そうなんですよね」

後藤「でも、仕上がりには満足してますよね?」

小路「そうですね。完成っていうことで、皆さんに自信を持ってお見せできる状態です。あとはもう僕の気持ち問題ということで」

―――後藤さんは完成品をご覧になって、監督にどういうお言葉をかけられましたか?

後藤「シンプルに『辰巳と葵、この2人が好きでした』っていうことですね。自分は俳優なんで、ストーリーとか映像表現よりもまずは芝居を見てしまうんですけど、遠藤さんの受けの芝居が良くて。素晴らしい俳優だと思いましたね。あとは、竜二役の倉本さんが狂気的な芝居で映画のテンションを上げる役割を果たしていると思っていて。どれだけ怖いことをしても、見た目がイカつくても、観る人をワクワクさせるような演技をしているなって。観ていてすごく楽しかった」

小路「試写で観てくれた上田慎一郎監督も『竜二が出てきたらワクワクした』って言っていたんで、なんかあるんでしょうね、ワクワクさせるものが」

後藤「倉本さんは自分の劇団の演出家なんですけど、演出の時もよくテンションとか、そういう部分をすごい大事にする人なんで。『それを自分でも実践しているんだ』って思いましたね」

―――本当に役者さん一人ひとり、キャラクター一人ひとりが目を引く映画なので、何回見ても楽しめる作品になっていますよね。最後にこれから本作を観る方にメッセージをいただければと思います。

後藤「一見怖いヤクザ映画っていう感じなんですけど、今日いろいろな話が出たように、色んな見方ができる作品だと思います。自由に観てほしいですね。多分何回観ても面白いと思う」

―――その点宣伝の仕方が難しいといいますか、『こういう映画です』っていうレッテルから逃れていくところが面白い。

後藤「シェイクスピアみたいじゃないですか。シェイクスピアだと思って観てほしいですね」

―――古典の風格がある。

後藤「古典のように何回再演しても、誰がどの役をやっても面白いと思う。そんな作品になっていると思います」

小路「僕からは一言、しっかりスクリーンで観てほしい、ということです。おっしゃってくれたように、どの役者も観ていてワクワクするお芝居をしているので、映画館だったらその素晴らしさが100%伝わってくると思います」

(取材・文:山田剛志)

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