「街の地図や、それぞれが住んでいる分布を作る」
シナリオを作る前に考えるイメージ
―――『silent』では学生時代の回想シーン、『チェリまほ』ではカメラを意識していないデートのシーンなど、風間監督の描く日常描写はいつも記憶に残ります。本作では、バンドの練習描写や練習帰りにみんなで喋る日常の描写が印象的でした。風間監督はこういった日常の描写を作る上で、こだわっていることはありますか?
「日常を描きたいというのは、セリフ以外にある彼らの関係性の雰囲気を捉えたいというところが強くあるんです。彼らがどんな場所に住んでいて、どんな道を通って、どういった部屋に住んでいて…といった舞台を、まず街を俯瞰的に見て考えていくことにこだわっています。
そこから、物語のスタートラインに立つときに、『この場所を彼らが通ったらどんな空気感になるだろう』とイメージしながら、街の地図や、それぞれが住んでいる分布を作って、こういう電車に乗って、あるいは、徒歩でどこまで行けて…ということを、時間をかけて考えています」
―――ロケ地を決める際に、かなり時間を割いているんですね。では、場所から物語の構想が思いつくこともあるのではないでしょうか?
「そうですね。僕の場合は、ロケーションからイメージをもらうことは多いです。場所をイメージしながら立ってもらうことで、シナリオ上で見えなかったその人の魅力など、生まれるものがあると考えているので、ロケーションに関しては、脚本を作りながら自主的に探しにいくくらい、頼りにしている部分です」
―――こういうロケーションだとインスピレーションが沸きやすい。という場所はありますか?
「あらゆるシチュエーションはあると思いますが、光の入り方や構図的に、人の流れみたいなものが見えるロケーションは、その人の動線のイメージがつきやすかったりしますね」
―――潮が清澄の部屋の窓ガラスを割った後に海まで歩くシーン、アパートから海へ向かう二人の夜道の描写ですが、階段や坂道など、場所や視点を変え、敢えて何カットも時間を割いて撮られていると感じました。今、風間監督のロケーションへのこだわりをお聞きしてとても納得できました。
「そのシーンは意識的に描いたので、気がついていただけて嬉しいです。シナリオを作っている中で、二人の関係性が急激に縮まるわけではないけど、自分自身の心象と向き合う時間を大切にした描写を、二人の彷徨っているような夜道、海に行くまでの散歩道に描写しました。
本当は3つのシーンがあったのですが、厳選して2つに絞り込みました。あと、彼らが住んでいるアパートから海の距離感を、ちゃんと提示したいということもあって、そのシーンはしっかりと時間を取りました」
―――このシーンでは、潮が、後ろからゆっくりと歩いてくる清澄を気にし、少し足を止めるような構図に、セリフがないながらも、二人の関係性がしっかりと表現されているように感じました。
「そうなんです。『自己と他者』という僕なりのテーマ、名前のない関係だったとしても、関係性そのものに視点を当てたいと思っていたので、距離感を感じてもらえるようなオープニングにできたら。という思いで撮りました」