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「シーンによってどこに視線の焦点を合わせるのか」
綿密に考え抜かれた眼差しの演技について

写真: 宮城夏子
写真 宮城夏子

―――今回の作品は、先ほど山﨑さんがおっしゃったように、都楳監督の頭の中を具現化したような作品になっています。そうしたコンセプトの映画は、演者やスタッフといかに世界観を共有するかが重要になるかと思います。その点、監督の頭の中のイメージを演者に再現してもらうにとどまらず、演者の生きた芝居から自身のビジョンを練り直すというやり取りをなさったというのは、とても興味深いです。

「きっと都楳さんは私と話をしたり、即興の動きを見ている中で、描きたいものを探していたのかもしれません。他の作品では、役づくりを担うのは基本演者である私一人で、私のエッセンスの一部を膨らませたりしてキャラクターを作っていくのですが、今回はその作業を都楳さんと2人で行ったという感じがします。

タエコって私に近いかって言われると、撮影中も今もそうは思わないんですけど、少なからず私の中にもタエコはいて、それを都楳さんが見つけてくれて。逆に私のお芝居から都楳さんがタエコのキャラクターを作り上げていくこともあって。2人でラリーをして作っていったという感触があります」

—具体的にはどのぐらいの期間、リハーサルを重ねられたのでしょうか?

「撮影は3年前の2021年に行ったのですが、1年間ぐらいは月に1回、クランクインまで半年切ったくらいからは2週間に1回ほどリハーサルを行いました。

そういえば、ムーブメント指導もあったのですよ。私自身はせっかちといいますか、結構チャキチャキ動いちゃう人だけど、タエコの動きは常にゆったりと浮遊しているような感じなので、『常に1cmぐらい地面から浮いているような感じで歩いてほしい』って言われて。『無理無理、そんなのできない』と思ったんですけど(笑)、重心の上げ方など、櫻井カスミさんというダンスの先生にご指導いただき、何とか形にできました」

―――今回の映画で山﨑さんが演じたタエコという役は生きる意思が希薄で、生と死の間にいるような役柄ですね。今回の作品で山﨑さんは様々なアプローチで役を作り上げていらっしゃいますが、ここでは「眼差し」と「声」の2つに着目したいと思います。都楳監督は山﨑さんの目に惹かれて本作の制作を決意したというお話がありましたが、タエコは眼差しに力が抜けていて、目力を全面に押し出すようなお芝居とは違いますね。目のお芝居に関して、どのようなことを意識されましたか?

「今回の映画では、シーンによってどこに視線の焦点を合わせるかめちゃくちゃ変えました。タエコにとって世界をはっきり見てしまうことは、痛みを伴うことです。したがって、精神状態が良くない時は視線のフォーカスをぼかして見る。

逆にリラックスしているときは、見ることへの恐怖心はないから、目に光を宿らせるようにして眼差しの解像度を上げてみる。シーンによってどれぐらいぼんやりしていた方がいいのか、監督と緻密にすり合わせて撮影を進めていきました」

―――タエコが世界をどう見ているのか、彼女の内面の変化を目のお芝居で表現されていたのですね。これはラストのセリフにも深く関わっていますね。

「そうですね。私の解釈では、痛みを伴ったとしても本当の自分でいることで、世界から感動とか愛情を受け取ることができる。逆に痛みから逃げていると、愛も希望も見えない。

だからタエコが目に光を取り戻した時、きっと痛みを感じる心も取り戻していて。それと同時に、傷つくことも素晴らしいことなんだよっていうふうに、タエコは気づいたか、もしくは気づくまでの一歩を踏み出す。そんな作品だと思っています」

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