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「『これじゃ通用しないぞ』っていう課題や壁が常に欲しい」
役者としての抱負について

写真: 宮城夏子
写真 宮城夏子

―――監督の頭の中を具現化したような作品は、ともすれば役者さんがオブジェ化してしまう危険性を孕みますが、本作がそうなっていないのは、山﨑さんの声や眼差しがシーンによって変化していく様子が物語とシンクロする形でしっかりと記録されているからだと思いました。本作はドキュメンタリーとして観ても面白いかもしれません。

「実は撮影当時、あまり自分の感覚がなかったんですよね。夏でもなぜか寒かったり、水の中に入っても全然おじけづかなったり。『普段の私だったらこう思うはず』っていう当たり前の感覚が希薄な時期だったので、それで言うと、確かに普段とは異なる私を記録した、ドキュメンタリー的な要素もあるかもしれないです。

タエコは映画を通して虚無から希望を取り戻す。死から生への移行を表現することに、役者としてのやりがいを感じていて、役に息を吹き込むために監督からの演出を待つのではなく、能動的に作品作りに参加したいと思っていたので、そうした姿勢がそういうふうに思っていただいた根拠になっているのかもしれません」

―――最後に山﨑さんご自身のことについてお話を伺えればと思います。映画をご覧になるのはお好きですか?

「好きですね。ただ、自分の精神状態によっても変わるというか。満腹の時に食欲が湧かないのと同じで、映画も心に余裕がないと入ってこなくて。勉強の為に見る機会は多いですけど、見るけど入って来ないみたいなことも少なくないです」

―――作品に向き合う態度として誠実だと思います。 流して見る方も沢山いらっしゃいますから。 最近ご覧になって刺激を受けた映画、あるいは刺激を受けた役者さんはいらっしゃいますか?

「映画『ひとよ』(2019)の田中裕子さんのお芝居はエネルギーがあって、それこそフィクションだけど、ドキュメンタリーみたいだと思いました。力が抜けているのに、役の持つ譲れない魂みたいなものが迸っていて。田中さんが出ているシーンは全部目が潤むぐらい、心に刺さって、大好きでした」

―――教えていただきありがとうございます。見てみます。

「本当に素敵な作品です。 ちょっと重たいテーマではあるので、心の余裕のある時に」

―――最後に、今後どんな役者さんになりたいのか、伺えればと思います。

「まだ経験したことはないのですが、実在の方を演じてみたいっていう思いがあります。それには私が今までやってきた役に近づくための作業とかでは通用しない部分がたくさんあるんだろうなと。

当人に対するリスペクトとか研究だけでは届かない部分があるだろうし、いろんなアプローチの仕方があると思うし、それを全部体験してみたいなと」

―――実在の方を演じること自体が目標であるというよりかは、それに取り組むことで、役者として別の景色が見える。山﨑さんにとってそれが大切なのかなと、お話を伺って思いました。

「とにかく私は、凝り固まったり、自分のやり方に偏りを作るのがすごく嫌いなんです。

今回のタエコ役もそうですが、素晴らしい体験を一つひとつ積み重ねていく中で、『この役作りで良い』って安心したくないというか、『これで私は行こう』っていうふうに自分を固めたくないんです。だから新しいことに挑戦して『これじゃ通用しないぞ』っていう課題や壁が常に欲しい。柔軟で色んな選択肢を持った役者で在りたいと思っていますね」

(取材・文:山田剛志)

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