「手の込んだものがどんどん虐げられている」
クリエイターとしてのジレンマについて
―――芸術というテーマを考える上で、もう一人の主人公と言ってもいい美樹の葛藤を描くパートも重要になってきます。結衣は規範に押し込めようとする力に抵抗するように、美樹もまた伝統から逸脱しないように、彼女の感性を否定する師匠に抵抗します。注目すべきは、後半の美樹が『クオリティは度外視して売れる商品を作れ』という別の規範、資本主義の論理みたいなものから抑圧を受けるという点です。これは監督ご自身が映像作家になった後に抱いた葛藤が反映されているのかなと思いました。
「そうですね。今でも仕事をしているからあまり悪く言うとあれですけど、やっぱり広告を作っていると、あるもの以上によく見せるという風にして消費者に商品が届くように映像を作る。ある意味で資本家の手助けをしてお金をもらっているわけですが、若い頃は全くそういう目線を持てなかったんですけど、だんだんキャリアを積んで年を重ねることによって、ジレンマが出てきたりして。
この映画の中でも焼き物とか、手の込んだものがどんどん虐げられて、シンプルで飾り気がなくて、汎用性がある物がいいんじゃないかみたいになってきていて。それって豊かじゃないんじゃないかなとか、凄く思うようになったんですよね」
―――恐らくそういうジレンマが後半の美樹の葛藤にかなり反映されているんじゃないかなと思いました。
「そうですね。実際に今回の舞台である有田という場所、焼き物業界自体が本当に同じような問題を抱えていて。職人さんが独自の秘術で手間をかけて作った焼き物があまり売れなくて、北欧にインスパイアされたシンプルなデザインのものに注目が集まっているんです。
親からもらった皿を大事に使い続ける。そして時には皿を見て親のことを思い出す。もう1回そういう手の込んだ焼き物の素晴らしさが広く伝わるといいなという思いもあって、美樹にそれを託したところがありますね」
―――小島監督は30年以上に渡って映像業界でご活躍されています。立場としては美樹の師匠に類比できる立場にいらっしゃると思います。若い作家から助言を請われるような機会も少なくないと思いますが、その際どのような言葉を掛けていますか?
「広告だとプロモーションする上でのキーワードやビジュアルのイメージとかがしっかりあるので、そこからズレないようにすること。自分のエゴにこだわるというよりは、目的に沿った映像になっているかどうかを常に忘れないようにするということですね。自分もそう心がけているので。
場合によっては、このシーンはこだわって撮ったから長く使いたいって思うこともありますが、広告的にはそうしたこだわりがネガティブに働く場合もある。そういう時にちょっと客観性を持った方がいいんじゃないっていうことは話したりしますけどね」
―――その点、美樹の師匠にも監督の目線が少し入っているのでしょうか?
「そうですね。難しい問題ですよね。焼き物も、絵付けも、ろくろもそうだと思うんですけど、やっぱ長くやるから手が覚えてできることもあるし、何回もやるから綺麗な線が描けるようになったりするわけで。その技術は簡単に身につくわけじゃない。それをちゃんと習得した上で自分の表現っていうところに向かうのがいいんじゃないかという、師匠が言っていることは少なからず私自身が思っていることではあるんですよ。
一方で、だからといって若さが持っているエネルギーとか表現のパンチ力を否定してはいけない。どうバランスを取ったらいいのか、自分でもまだこれといった明確な答えが見つからないところではありますけどね」