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「映画館に革命が起きるんじゃないか」
セリフの反復とタイトルについて

写真:武馬玲子
写真武馬玲子

―――渉は『死んでくれないかな』と父親に対して執拗に言いますが、その理由を口にすることはないですよね。『俺はあんたのようになるのが怖い』というようなことは言いますが、そこから『死んでくれないかな』という言葉に行き着くまでには飛躍があり、それが凄く興味深かったのですが、その飛躍を我々観客はどのように埋めていけばいいのでしょうか?

二ノ宮「『あんたがいたせいで俺はこうなって』って。このシーンも説明することとしないことのバランスをとるのが難しくて。映画全体を通じてなんですけども、説明しなさすぎてもダメだし、説明しすぎもダメ。そこのバランスを本当に考えました」

―――プレス資料によると、渉と豊原さん演じる男は血が繋がってないということでした。

二ノ宮「『てめぇとは関係ねぇ』みたいなセリフがありますね」

坂東「血は繋がっていないけど『お前と過ごした時間で俺は作られてしまっている』から『お前みたいになるのが怖いんだ』っていう渉の気持ちはありますよね。だから殺したい…というか『自ら死んでくれ』と。お前の存在がいる限り、俺はお前になってしまう可能性が高いから…っていうこと?」

二ノ宮「そうそうそう」

坂東「良かった(笑)。俺、間違ってたかなって(笑)」

―――観客は登場人物の断片的なセリフや振る舞いから彼らの心情を推しはかるしかないと。説明することとしないこと、両者のバランスをとることに細心の配慮を注いでいることは観ていてよく伝わりました。続いて、内容に踏み込んだお話をさせてください。

本作は言葉と行動のズレみたいなものを一貫して描いていると個人的には思いました。例えば英治は、路上喫煙を咎める一方、自分は外でタバコを吸う。あるいは、男同士のキスを冷やかす女性2人を咎めますが、それは2人を口説くためのきっかけに過ぎない。発しているメッセージは良いことなのに、行動によって台無しにしている。それが『若武者』というタイトルに関わっているのかなと思ったんです。

と言うのも、かつての武士階級には言行一致を尊ぶ価値観があったと思うんですけど、それが普遍的に正しいものなのか、あるいは今の時代に則しているのかは置いといて、そうした価値観とは真逆の人物像がこの映画では描かれていて、その上で『若武者』というタイトルが付されていることが興味深いと思ったんです。

坂東「なるほど〜。面白い視点」

二ノ宮「今の話を聞いてて思ったのは、この映画は『メッセージを伝えたい映画ではない』ということです。とはいえ、もちろん作品から何らかのメッセージを受け取っていただくこと自体を否定したいわけではなくて…ただメッセージを発するだけの作品にするのだけは避けようと思ったんです。タイトルに関しては今言ってくれるまで考えたことはなかったですけど、そういう見方もできるかもしれません」

坂東「それも1つの解釈。観てくださった方の受け取り方の一つとして面白いと思いました。この映画は『こういう風に観てください』とか『こういうメッセージ性があります』みたいに限定しない方がいい気がしていて。

だから宣伝で魅力を伝えたいんですけど、伝え方が抽象的になるというか、『今までにない映画です』とか『青春映画だけど青春映画じゃない』あるいは『死生観の話です』とか(笑)。本当に抽象的な言葉でしか表現できないんですけど、観れば確実に残るものはある」

―――セリフの反復もそうした作品の手触りに寄与していると思いました。この映画では頻出する言葉がいくつもありますよね。『怖い』とか『気持ち悪い』とか。

坂東「『楽しんで』とか」

―――何回も形を変えて繰り返されることによって、言葉が単一のメッセージからはみ出していって、観る人の解釈を開かれたものにするという側面があると思いました。

二ノ宮「ありがとうございます。そこは狙ってました(笑)」

―――私は作品を観終わった後に言葉にして、その面白さを再確認するということが好きなのですが、『若武者』のような繊細な映画にズケズケと言葉で押し入っていくのには心苦しさも覚えます。そんな中でも、今回、お二人から誠実かつ刺激的なお話を伺えて嬉しいです。

坂東「実は僕、インタビューを受けることに苦手意識があるんですよ」

二ノ宮「え?受け答え、凄い上手いけど(笑)」

坂東「本当に苦手で。ボキャブラリーが乏しいから同じようなことばかり言ってんの。だからもっと本読まなきゃなって思いますし、作品レビューとかも書いてみようかな」

―――今日『若武者』についてじっくりお話を伺って、お二人のお言葉、とても魅力的だと思いました。さらに言うとお二人は作品を観た人に「(言葉を)語りたい」という欲望を喚起させるお仕事をなさっているので、役割もあると思います。

坂東「ありがとうございます。そう言っていただけると気持ちが楽になります。言葉でこうやって皆様に伝えてくださる方があっての我々ですからね。今回の作品、試写を観終わった後、こんなにエッジの効いた尖った作品は中々ないって思って。『映画館に革命が起きるんじゃないか』って、全スタッフ・キャストが達成感と高揚感を凄く感じています。本当に観てもらいたいです」

(取材・文:山田剛志)

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