「フィルムノワールのモノクローム画面の質感をデジタル全盛の現代に」緻密に計算された画面づくり
―――箱男のビジュアルに関して、原作では冷蔵庫の箱だったかと思いますが、乾燥機の箱になっていたり、映画ならではの工夫が随所で見られます。箱男のビジュアルはどのようにして作り上げていきましたか?
「私は『爆裂都市 BURST CITY』(1982)からの仲間である美術監督の林田裕至さんを(もちろん、どのスタッフもそうですが)非常に信頼していて、彼がやることは間違いないと思っています。今回も限られた予算と準備期間で素晴らしい美術を作り上げてくれました」
―――室内のシーンの多くは、光と影のコントラストが鮮烈でした。窓の格子の影が登場人物の身体に落ちかかるだけでドキドキする。充実したショットが目白押しですが、撮影監督の浦田秀穂さんとはどのようなやり取りをされましたか?
「浦田さんと照明の常谷良男さん(2人とは『ネオ・ウルトラQ』も一緒にやっています)とは、光と影の問題に加え、ロケ地の特性をどう活かすかなど、全てのカットで細かくやりとりをしました。特に私はドイツ表現主義の映画とフィルムノワールがとても好きなので『こういう画が好きだ』と伝えて、イメージの共有を計りました」
―――具体的にどのような作品を観てもらったのでしょうか?
「観てほしいと言ったのはF・W・ムルナウ監督のサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)。それも、ちょっと邪道ですけど、人口着色でカラーライズされたやつ。色が歪んでいて凄く不思議な画面なんです」
―――面白いですね。フィルムノワールの作品で観てもらった作品はありますか?
「私はアンソニー・マンのノワールがとても好きなんですけど、今回はマンの作品ではなく、ジョセフ・H・ルイスの『暴力団』(英語タイトルは『The Big Combo』)を観てもらいました。ルイスだと『拳銃魔』も素晴らしいですよね。
私は、フィルムノワールのモノクローム画面の質感をデジタル全盛の現代に上手く取り込めないかと常々思っていて、今回も照明の常谷さんと話し合ったのですが、当時のライトと今のライトが違うので、完璧に再現することはできないと言われました。
ただ、本作ではデジタルの強みを活かして、浦田さんチームが、撮影から最終的なグレーディング※に至るまで、きわめて緻密な計算に基づいた画面づくりがなされています。画面のクオリティにおいてデジタルで撮影された映画の最高峰だと自負しています」
※撮影後に映像の階調と色調を整える画像加工処理