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「段ボールの箱に入るだけで露呈する現実の多重性」
娯楽映画にするという確固たる意志

ⓒ2024 The Box Man Film Partners

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―――室内のシーンでは印象的な形で鏡をフレーム内に配置されています。画面の中に複数のフレームを配する演出は、本作のテーマと密接に関係していると思うのですが、その辺は意識されましたか?

「しました。本当はもっとやりたかったんですけどね。どうすれば映画を観ている観客一人ひとりの主体性を揺さぶることができるのか。メタフィクションとしての体験をどのように作っていくのかと考えた時に、枠は非常に重要な問題です。箱男の箱には横長の枠が縁取られていて、この映画は横長のシネマスコープサイズで撮られているわけですけど」

―――中盤、浅野忠信さん演じるニセ医者が警察から取り調べを受けるシーンの舞台となる部屋には横長の窓があります。これはセットでしょうか?

「いや、あれは実際にある場所で、ロケハンで見つけました。どうしてもあそこでやりたかった」

―――部屋の壁に横長のフレームが縁取られていることで、観る者に「ここもまた箱の中である」という印象を強くもたらします。

「そうですね。私は、安部さんの小説自体が箱の多重性、ひいては僕らが生きている現実の多重性を表していると思っていて。それはバーチャルリアリティの発展が目覚ましい昨今において重要性を増しているどころか、今後僕らが最も真剣に考えなければいけない問題の1つになっています。もちろん、こうしたテーマは『マトリックス』(1999)などでも描かれてきました。しかし、枠のある段ボールの箱に入るだけで、現実の多重性を露呈させてしまうというのは、やっぱり安部さんの素晴らしい発明だと思います」

―――本作を観終わって、地下鉄に乗って周りを見渡すと、至るところにスマートフォンのフレームがあって、人々の視線はそこに吸い込まれていくわけです。

「まさにスマートフォンです。スマホがなければ私も非常に不安になるし、人によっては本当1日中、多分寝る時も横に置いて、朝起きたらすぐに画面を眺める。生活にはなくてはならないものになっています。ただ、非常に便利ではあるのですが、同時に非常に危険な側面を持っているのも確かです」

―――スマートフォンの中にはネットの世界が広がっており、そこには現実とは別の人格がいて、物語を生きている。『箱男』のストーリーは非常に難解ではありますが、今申し上げたようなアナロジーを適用するとスッと入ってくるものがあります。

「私もそうじゃないかと思うんです。中学生が見たら大人よりもスムーズに作品世界に入れるかもしれない。今回『箱男』を映画にするにあたり、純文学でも、前衛でも、存在論的ホラーでもなく、娯楽映画にするという確固たる意図が自分の中にありました。PG12ですから、中学生も観られますし、小学生も大人同伴だったら観られます。子どもたちにも劇場に足を運んでほしいです」

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