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「内面に入っていったら全世界と繋がっている」
安部公房とサイバーパンク

写真:浜瀬将樹

写真:浜瀬将樹

―――浅野さん演じる偽医者が、日記のテクストをなぞるというシーンでは、腕に装置を付けていますね。観ていてとても驚かされたのですが、あれは何でしょうか?

「あれは軍医の書いた字を分析して、筆跡をトレースできるように誘導するデバイスなんです。ここは説明はいらないかなと思ったんですよね」

―――とても面白かったです。原作の中でも日記をなぞるという描写はあったと思うのですが、こういう形でやるのかと。デジタル装置が出てくることによって、時代性が曖昧になりますよね。非常に石井監督的だと思いました。

「『太陽がいっぱい』(1960)に、アラン・ドロン演じるリプリーがプロジェクターで大きな紙にサインの筆跡を投影させてその上をなぞるというシーンがあって、それは少し念頭にありました。あれを簡略化したようなものですね」

―――本作を観て「サイバーパンク」という言葉も想起しました。

「内面に入っていったら全世界と繋がっている、というね。サイバーパンクは私自身とても好きなジャンルですし、そういう目線で観てもらっても全然構わないと思っています。もちろん安部さんの場合は非常に日本的ですけど、日本的なものを突き詰めた挙げ句、ワールドワイドに突き抜けている。非常に冷めたまなざしで日本人の気質、土着性を見ていると思うんですけど、それを徹底することでとんでもなく変なところに帰着する。そこがとても面白い」

―――先ほど、日本の文学作品になかなか馴染めなかった若き日の石井監督が、なぜか安部公房だけは例外的に受け入れることができたとおっしゃいました。安部公房の小説が潜在的にもっているサイバーパンク的な想像力に惹かれたというのもあるのでしょうか?

「僕らの日常は目に見えない規則に取り巻かれていて、普通の人はそれがあるのが当たり前で常識だろうと考えている。でも、安部さんの小説はそれを可視化して覆します。

僕らが信じて必死で守っているものがいかに曖昧なものであるのかに気付かせてくれる。その瞬間、世界は丸裸になるし、ビルディングが蜃気楼に見えてくる。『すべては僕らが作り上げた幻なんじゃないのか』と思えてくる。それによって逆説的に、本当に大事なことが見えてくる。安部さんの小説を読むことで、視野がものすごく広がったように感じたんです」

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