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「『カンガルー・ノート』を読んで安心した」
映画ならではのラストシーンについて

写真:浜瀬将樹

写真:浜瀬将樹

―――安部公房は生前、石井監督の作品をご覧になっていたとのことです。あくまで想像に過ぎないのですが、もしかしたら石井監督の想像力が、自分の世界観を拡張してくれるんじゃないかという期待もあったのかなと。

「私自身、非常に思い入れのある2つの映画、『逆噴射家族』と『ノイバウテン 半分人間』(1986)を安部さんは観てくださり、気に入っていただけたようです。

安部さんが亡くなった後も折に触れてなぜだろう? と考えていたんですけど、ある時、安部さんが晩年に書かれた『カンガルー・ノート』という小説が最後に箱男が出てくるっていうのを信頼している方から聞いて読んでみたら、驚くと同時に腑に落ちるものがあったんです。

この小説、ある日突然自分の膝から貝割れ大根が生え出して、病院に行って入院したら、ベッドが勝手に爆走し出す…といったギャグ漫画のような展開が目白押しなんです。そこは自分の感性に非常に近い。安部さんは亡くなる前にこういう境地に立っていたのかと、共通項を見つけることができて安心したんです。

一方で『カンガルー・ノート』には従来の安部さんの小説と同じく死の気配が濃厚に漂っていて、それも笑いで包むのですが、ご自身が死の間際に書かれたということもあって、グッとくるものがあるんですけど。ただ、それまでの純文学的な描写ではなくて劇画的な描写が散見できる。この本を読んで励まされた気持ちになりましたし、それは今回の映画にも通底してると信じています」

―――今回ラストシーンは映画というメディアならではの方法で、『箱男』の結末を再創造していると思いました。ひょっとしたら最初に書かれたシナリオも同じラストだったのではないかと想像したのですが…。

「いえ、違います。最初のシナリオではもっと原作に忠実でした。ドイツでの映画が中止になった後でシナリオを書き直した際に、原作の精神をメタフィクションとして成立させるにはどうしたらいいのか考えた時に『観客が箱男になる』というアイデアが思い浮かんだのです。かなりストレートな表現で気恥ずかしさもあるんですが。

お客さんがなかなか映画館で映画を見てくれない時代になってきてはいますが、私は、映画は体験するものだと思っています。映画館で観ることの醍醐味を味わってもらえるようなラストにしたいと思ったんです」

―――先ほども話題に上がった影と光の表現なども、映画館じゃないと十分に味わえません。映画館で体験することに価値のある作品になっていると思います。

「スクリーンだと細部が表現できるんですよね。特に安部さんの小説はディテールがとても大事だと思うので。それと空間。広くて真っ暗な空間にぽつんと穿たれた白い枠。そこに投影されるにふさわしい『箱男』にしたかったのです」

(取材・文:山田剛志)

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