10月18日（金）より公開された日仏合作映画『徒花-ADABANA-』にて主演を務められた井浦新さんに独占インタビューを敢行。本作にかける想いや役作り、また俳優としてのターニングポイントについてなど、たっぷりとお話を伺った。（取材・文：福田桃奈）

「甲斐監督の世界観をなるべく純度の高い状態で自分が飛び込んでいく」

ーー井浦さん演じる主人公の視点からも観ることができますし、水原希子さん演じた女性の視点からなど、あらゆる視点で観ることができ、本当に豊かな作品だと思いました。出演に至った経緯について教えてください。

「2019年に甲斐さやか監督の前作『赤い雪 Red Snow』に出演させていただき、その時に『また一緒にやりましょう』と仰っていただいたんです。前作も脚本の完成度が高くて、一つの読み物として成立していました。

俳優の仕事は、いただいた脚本に命を吹き込んで豊かな世界にしていくことだと思うのですが、甲斐監督の脚本は生身の人間が演じたらどうなるのだろうと、想像力を掻き立てられるようなことが書かれてあり、台本というより文学作品なんです。

なので読んでいて楽しいですし、感動するのですが、脚本の世界観を自分がちゃんと表現できるのか、いつも覚悟を求められる。甲斐監督の描く世界観は本当に唯一無二で、オリジナリティに溢れているので、その世界の中に身を置くことができる喜びがあります」

ーー準備稿の段階からご覧になっていたそうですが、意見やフィードバックはされましたか？

「僕からはないです。自分の心と体でどう表現するのかが喜びであって、甲斐監督の世界観を自分の感覚で削ることは僕として不本意なんです。何を要求されても対応できるように準備しつつ、甲斐監督やプロデューサーたちが決定稿まで仕上げていく過程をひたすら見守っていました」

ーーそれは他の作品に出演する時にも共通する心持ちなのでしょうか？

「きっとこれが現在の自分のやり方なんだと思います。『自分がやりやすいように』という感覚は20代の頃に捨てました。現在は難しいことに挑戦することにお芝居をする喜びを感じていて、自分の主観は正直ないんです」

ーー作品の世界に身を委ねると。

「そうですね。想像力を働かせて、全体がどうなっていくのか、それを考えるのが大事です。もちろんそれぞれの役を生きる上で、自然と言葉が溢れて生まれたりもするので、そういう時は現場で自分の考えを伝えたりすることもありますが。

今回は主演で、自分だけではなく、作品全体をちゃんと捉えたいという思いがありましたし、とにかく甲斐監督の世界観を汚したくなかった。なるべく純度の高い状態で自分が飛び込んでいくことを僕自身が熱望していました」