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入江監督が描出する「底辺のリアル」

© 2023『あんのこと』製作委員会
© 2023『あんのこと』製作委員会

 筆者がまず感心したのは、入江監督が貧困や底辺を知り尽くしていることだった。劇中の杏の家族だけではなく、深刻な貧困は家族の人間関係の破綻からはじまる。本作で描かれた毒親被害は決して映画だけの特殊な話ではなく、日本を代表する社会病理だ。

 しかも、実際に母親と娘という関係が圧倒的に多い。母親が娘を所有物として支配し、娘のSOSは無視、娘との関係やお互いの精神が崩壊するまで邁進する。

 知らない人も多いと思うが、家族間の暴力と支配は祖母から母、母から娘に受け継がれる遺伝だ。虐待被害者が加害者に、ということがずっと繰り返されている。劇中で具体的な説明はなかったものの、杏に鬼のような虐待を繰り返す母親は、認知症で介護状態にある祖母から同じような虐待を受けていたのかもしれない。

 そして、徹底した暴力が蔓延する荒れた家庭では、掃除や片づけどころではない。杏の家族が暮らす団地の部屋は、ゴミが山積し、劣悪な環境で生活するうちに社会と乖離して、当然の結果として困窮していく。負の連鎖だ。

 負の連鎖とは、幸せとは程遠い鬱屈が弱者への暴力やゴミに変化してどんどんとマイナスに向かっていくこと。この家族では杏が弱者であり、母親は、はけ口としての日常的な暴力だけでなく、売春を強制して稼いだお金をすべて奪っていくことまで発展した。

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