『さよ朝』スタッフによる圧倒的作画
脚本には疑問点も
本作のスタッフには、副監督の平松禎史、キャラクターデザイン・総作画監督の石井百合子、美術監督の東地和生ら、『さよ朝』のメインスタッフが再集結しており、作画のクオリティは申し分がない。ヒビが入った世界の光と季節の表現や、五実を載せた汽車が月明かりの夜に海原の陸橋を渡るシーンなど、あまりにも美しいシーンの連続に息をのむこと請け合いだろう。
とはいえ、本作に欠点がないわけではない。こと脚本に関していうと、完成度が良いとはお世辞にも言えないのもまた確かだ。
まず、全編を通して「痛い」「好き」「嫌い」といった説明的なセリフがあまりにも多すぎる。特に、カーチェイスのシーンで、正宗がカーラジオから流れるリスナーの会話にいちいちリアクションを挟むという演出は、観客を置き去りにしてしまう危険性を孕んでいる。
正宗たちが生きる世界の曖昧さについても気になる。「何も変えてはいけない」といいながら、正宗の同級生の新田たちの恋愛はなぜ許されるのか。加えて、正宗たちの世界の仕組みについてはほとんど具体的な説明がなされない。そのため、観客はいまいち全体像がつかめないままだ。
感情的なセリフを優先することで、観客の感情にダイレクトに突き刺さるような構造になっている。それは本作の大きな魅力だろう。その一方で、肝心な正宗たちが生きる世界の説明が曖昧になってしまっている。