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「言葉の過剰さ」と「世界の遠さ」

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』9月15日(金)全国公開 (c)新見伏製鐵保存会 配給:ワーナー・ブラザース映画 MAPPA
c新見伏製鐵保存会

岡田は、2017年に『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(文藝春秋)という自伝を出版している。

本書の中で岡田は、自身がかつて、学校生活にうまくなじめず、5年間にわたって引きこもりだったことを告白しており、変わることのない日々の閉塞感や、『あの花』『ここさけ』といった作品への影響を克明に綴っている。

岡田の作品が、全て自身の過去を投影したものであるとするなら、本作も例外ではないだろう。現に、製鉄産業が栄えた本作の舞台、見伏町は、セメント産業が盛んな岡田の故郷、埼玉県秩父市にそのままなぞらえられる。つまり、本作に登場する世界は、子供時代の岡田が肌で感じた世界のリアルそのものなのではないか。

そう考えると、本作の過剰さにも合点がいく。引きこもりの岡田が目の当たりにしてきた孤独の世界では、他者や世界はあまりにも遠くにあったと想像できる。だからこそ、自身の感情を全て言葉にし、自身の存在を証明しないと届かないのだ。

そして、岡田が世界に投げかける「過剰な言葉」は、かつての岡田と同様の生きづらさを抱える人々にとって大きな力となることは間違いない。こういった意味で、岡田の作品は、今この世界で「必要」とされているのかもしれない。

(文・司馬 宙)

<作品情報>
変化を禁じられた世界で、止められない“恋する衝動”を武器に、未来へともがく者たちの物語

製鉄所の爆発事故により出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす14歳の正宗。いつか元に戻れるようにと、
何も変えてはいけないルールができ、鬱屈とした日々を過ごしていた。ある日、気になる存在の謎めいた同級生・睦実に導かれ、
製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは、言葉を話せない、野生の狼のような少女・五実ー。
二人の少女とのこの出会いは、世界の均衡が崩れる始まりだった。止められない恋の衝動が行き着く未来とは?

脚本・監督:岡田麿里
副監督:平松禎史
キャラクターデザイン:石井百合子
演出チーフ:城所聖明
美術監督:東地和生
音楽:横山 克
制作:MAPPA
主題歌:中島みゆき「心音(しんおん)」
出演:榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲/八代拓 畠中祐 小林大紀 齋藤彩夏 河瀨茉希 藤井ゆきよ 佐藤せつじ/林遣都 瀬戸康史
配給:ワーナー•ブラザース映画 MAPPA
公式HP
©新見伏製鐵保存会

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