役者・大泉洋が新境地を開拓…定番の”難病モノ”にはない魅力とは? 映画『ディア・ファミリー』考察&評価レビュー
ノンフィクション作家・清武英利の著書「アトムの心臓 『ディア・ファミリー』23年間の記録」を原作とした大泉洋主演の映画『ディア・ファミリー』が公開中。余命10年を宣告された娘を助けるため、経験ゼロから医療器具の開発に挑む感動作。その見どころを解説する。(文・村松健太郎)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:村松健太郎】
脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。
主人公は娘のために“命のカテーテル”を作った町工場の社長
開発されてから現在に至るまでに、世界中で17万人以上の命を救ってきた“命のカテーテル”と呼ばれる医療器具をご存知だろうか? 映画の見どころに触れる前に、本作の基になった実話を見ていこう。
現在・株式会社東海メディカルプロダクツの会長を務める筒井宣政(映画では坪井宣政)の次女には先天的な心臓疾患があった。
現在でも決して軽視できない心臓疾患だが、1970年代当時は不治の病と言っても過言ではなかった。そんな中、筒井の次女・佳美は“余命10年”という宣告をうけ、医師から成人式を迎えることはできないだろうと告げられてしまう。
日本中はおろか海外の医療機関まで回った宣政。もはや打つ手はないかと思われた時、とんでもない宣言をする「じゃあ、俺が人工心臓をつくってやる」と。
小さな町工場を経営しているとはいえ筒井には医療に関する知識は全くない。にもかかわらず、日本中の医療機関を口説いて回り、共同研究の約束を取り付ける。
しかし、やはりというべきか、研究は難航する。やがて人工心臓の研究・開発に行き詰まり、これを断念することになる。しかし、転んでもただでは起きぬ筒井は、それまでに得た技術を転用してIABP(大動脈バルーンポンピング)通称・バルーンカテーテルの国内開発、生産に舵を切る。その裏には佳美の進言もあった。
かねてより、海外から輸入したカテーテルが使用されるケースはあったものの、海外製は日本人の体質・体格に合わず、問題が頻発していた。そのため、日本人のカラダに合わせた国産カテーテルの開発は画期的なものだった。
筒井の情熱が実を結んだ結果、東海メディカルプロダクツはバルーンカテーテルの国産シェアナンバーワンの座にまで上り詰めることになる。そして、父親を支えた佳美は成人式を迎えることが叶い、23歳まで生きた。