ゴジラ史上最恐最悪…
殺意に満ちた”モンスターゴジラ”
本作は、兵器も物資も枯渇した終戦直後の日本を舞台としており、敷島をはじめとした丸腰の日本人に感情移入させることで、ゴジラの脅威がより際立って見える仕掛けになっている。そういう点で本作に登場するゴジラは、シリーズ屈指の「最恐モンスター」といえるだろう。
とりわけ恐ろしいのは、敷島たちの乗るオンボロ帆船がゴジラから逃走するシーンだ。禍々しいヒレを出し、高波を立てながらどこまでも追ってくるゴジラの姿は、人間に対する明らかな怨念と殺意を感じさせるとともに、『ジョーズ』(1975)に登場するサメをも連想させ、思わず背筋がのけぞってしまう。
そして、その直後、敷島たちの前に頼みの綱であった戦艦高雄が現れるが、この戦艦もゴジラの力の前にあっという間にのされてしまう。
ーこんなヤツに勝てっこない…。
観客の恐怖は、圧倒的な絶望感に変わっていく。こういったアトラクション的な演出は、山崎の本領発揮と言えるだろう。
また、「火力」の強さも本作のゴジラの特徴だろう。例えば、銀座のシーンでは、数秒の「タメ」の後、咆哮とともに口から超特大の火球を放つ。その瞬間、街は無音に包まれ、続いて強烈な爆風が襲いくる。こういった描写は、いやが上にも冷戦期の核実験を連想させるものだ。
人類の敵意をむき出しにしたこういったゴジラの描写は、本作のゴジラが意志を持った”戦争(太平洋戦争)”メタファーであることを端的に示している。これは、意志を持たない”天災(東日本大震災)”を描いた『シン・ゴジラ』版のゴジラとは対極にあると考えることができるだろう。