実写版ならではの風景の力に圧倒される
今作の舞台は冬の北海道だ。真っ白な雪に囲まれた大自然の美しさも、作品の魅力の一つである。当然、マンガだとカラーがないので、景色についてイメージしにくい部分もある。その点は、実写を通してより作品への理解が深まった。
監督・久保茂昭は原作の大ファンだったそうだ。彼は監督就任が決まった際に、すぐに自腹で北海道まで足を運んだという。北海道の雪はすぐに足が沈んでしまうほどで、撮影にはリスクが伴ったが、それでも極力北海道での撮影にこだわった。愛とリスペクトを感じるエピソードである。
今作の公開後、SNSをみると「道民として、よく無事に撮影できたなと感じた」という意見も見かける。 この感想が、何よりの賛辞だろう。
また今作を語るうえで欠かせないのが「アイヌの暮らし」である。作中でアイヌの村(コタン)が登場するが、その大道具・小道具に関してもアイヌならではの作り方を再現しているそうだ。 エンドロールでは監修・協力に入ったアイヌ関連の団体名がたくさん登場する。
このあたりの異文化にまつわる描写は、「マジョリティ」の視点から「マイノリティ」を描くという構図上、非常にセンシティブではある。しかし本作のスタッフは「アイヌ文化への敬意」を欠かすことなく、現地の技術をふんだんに取り入れることで、異なる文化に架け橋をかけることに成功している。