北野映画の到達点ー演出の魅力
北野武の7作目の監督作品。主人公の刑事、西をビートたけしが、その妻・美幸を岸本加世子が演じている。
本作は、第54回ヴェネツィア国際映画祭で、日本映画としては『無法松の一生』(1958年)以来約39年ぶりに最高賞の金獅子賞を受賞。また、黒澤明やジャン=リュック・ゴダールといった巨匠が本作を激賞したことから、北野武の世界的な地位を決定づけた作品として知られる。
本作は、文楽などで見られる「道行き」をモチーフとしたロードムービーの体裁をとっている。しかし北野作品だけあって、単なる心中ものではなく『その男、凶暴につき』(1989年)や『ソナチネ』(1993年)同様、暴力と笑いが随所に散りばめられた作品に仕上がっている。
また、本作が世界的な評価を得た一つの要因として、富士山や花火、寺院など、日本的な情緒にあふれたモチーフが散りばめられている点も挙げられるだろう。こういったモチーフには、正直「狙いすぎ」な感はあるものの、本作を抒情豊かな傑作たらしめるのに貢献している。
また、本作では、はっきりとした意思を持って死へと向かって突き進む男の姿が描かれている。これは、これまでの北野の作品にはあまり描かれなかった人物像だ。ここには、1994年に起こったバイクによる自損事故で死の淵を彷徨った北野の死生観の変化が如実に現れていると言えるかもしれない。
なお、本作の「HANA-BI」は、「花(儚さ、生)」と「火(暴力、死)」を対比させた秀逸なタイトルで、本作の本質を見事に剔出している。さまざまな「生」と「死」のイメージが横溢する本作は、初期北野映画の集大成であり、人間・北野武の人生を凝縮した作品といえるだろう。