絶妙な相性をみせるヤマシタトモコのつむぐ言葉と瀬田なつきの演出
「きみさ 人生かわるね エポックだ」
若き伯母と姪のコアビタシオンが始動してからまもなく、槙生とは中学時代からの親友・醍醐奈々(だいご・なな/夏帆)が訪ねてきて、パオダン(包団 =手作り餃子パーティのこと)を催した帰りぎわ、醍醐がぽろりと。人見知りが激しく、他者との共生などとうてい不可能に思えた友の身に生じた生活激変への、醍醐なりの応援コメントである。このように、この映画は原作漫画の名セリフをよきターンとして活用しながら、絶望と死と喪失の物語を、思いのほか小気味よく、リズムよく進行させていく。
監督は瀬田なつき。『ドライブ・マイ・カー』(2021)で米アカデミー賞を受賞した濱口竜介監督とは東京藝術大学大学院映像研究科の同窓だった才能豊かな女性監督であり、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2011/原作 入間人間)で商業デビュー後は、『PARKS パークス』(2016)、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(原作 岡崎京子)、『HOMESTAY』(2022/原作 森絵都)と、ユース年代の原作ものを中心に、シティポップの歌詞の進行のように心地よく、そして時には怖さとともに描いてきた。
『違国日記』の画面と音響を前にして、筆者が確信したのは、ヤマシタトモコのつむぐ言葉と、瀬田なつきの独特な造形、編集リズムの相性がすこぶるよいということである。どんなに弱々しく吐かれた愚痴も、どんなにかすれた声帯で絞りだされたため息も、瀬田なつきの画面はこれみよがしの大仰さとは無縁に、絶妙な感触で拾い上げていく。原作漫画が発表された当時、最も肝心に響いた、朝による次のモノローグを意外にもあっさりと排除しながら。
「この日 このひとは 群れをはぐれた狼のような目で わたしの天涯孤独の運命を退けた」