『ミッシング』に散りばめられた笑い

『ミッシング』は、こんなに意地悪で救いのない話なのに「笑い」が散りばめられている。
例えば、両親へのロングインタビューのシーン。滔々と娘への切実な思いを語る沙緒里の何気ない一言に、カメラマンが放つ「○○○?」(漢字3文字)。我々観客の脳裏にもちらついたがあえて無視しておいた漢字3文字を、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のパネラーゲスト芸人のような瞬発力で放つシーンには思わず吹き出してしまった。
また終盤、沙緒里の「推し」であるアイドルの楽曲が、満を持して流れるシーン。誰の耳にも明らかなくらい安っぽくてダサい曲に不覚にも笑ってしまった。しかもその曲が、絶望のどん底にいる沙緒里の軽自動車の中で流れる。コイツらのライブに行っている間に娘が失踪したという事実が、フリとして効きまくっているので、より際立ったそのチープさがめちゃくちゃ面白い。
笑いは、いじめそのものである…爆笑問題の太田光さんは、テレビやエッセイで度々「笑いの加害性」について語っている。『M-1グランプリ2022』(ABCテレビ)でウエストランドが悪口漫才で優勝したときも、「あいつらは悪口で爆笑を起こして、スタジオにいた全員を共犯にした」と自身のラジオ番組で話している。
『ミッシング』の笑いは、観客を容赦なく「悲しみに暮れる母親を笑う心ない人側」に引きずり込んでくる。観客を加担させ、沙緒里ら夫婦を追い込んだ「心のない世間」の中に自分たちもいることを気づかせてくる。
鬼才と賞賛される吉田恵輔監督だが、もはや本当の鬼であり、最も「心を失っている」のは吉田恵輔監督なのかもしれない。
最大限の賛辞を込めて監督に言いたい。心ないんすか? 監督。
(文:前田知礼)
【作品概要】
石原さとみ
青木崇高 森優作 有田麗未
小野花梨 小松和重 細川岳 カトウシンスケ 山本直寛
柳憂怜 美保純 / 中村倫也
監督・脚本:吉田恵輔 ※吉田監督の「吉」は「つちよし」です。
音楽:世武裕子
製作:井原多美 菅井敦 小林敏之 高橋雅美 古賀奏一郎
企画:河村光庸 プロデューサー:大瀧亮 長井龍 古賀奏一郎 アソシエイトプロデューサー:行実良 小楠雄士
撮影:志田貴之 照明:疋田淳 録音:田中博信 装飾:吉村昌悟 衣装:篠塚奈美 ヘアメイク:有路涼子
スクリプター:増子さおり 助監督:松倉大夏 制作担当:本田幸宏 編集:下田悠 音響効果:松浦大樹
VFXスーパーバイザー:白石哲也 キャスティング:田端利江 題字:赤松陽構造
製作幹事:WOWOW 企画:スターサンズ 制作プロダクション:SS工房 配給:ワーナー・ブラザース映画
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