今、この瞬間を逃したら決して映すことができなかった映像
前述の通り、本作は4月期に放映された中学生編の連続ドラマの10年後を描いたオリジナルストーリーだ。
中学生以降の高木さんと西片については原作の番外編などで結婚した姿が断片的に描かれて来たが、今回はそこまでの過程を大きく膨らませて一本の映画としている。
とここまで書くと、ドラマを見ていない人たちには入りづらい映画なのかとも思われるだろうが、高木さんと西片二人の関係性について、前提となるヒストリーは映画でも触れられているので、安心して観ることができる。
キャスティングで言えば永野芽郁と高橋文哉という、今が旬の俳優がそろい踏み。二人とも様々なキャラクターを演じてきたが、基本的には“陽性”な気質の持ち主であろうことは見ていれば伝わってくる。この“陽性”な部分と映画が(さらに言えば原作が)持ち合わせている優しい部分とがうまくマッチしている。
かつて中高生だった方々、今まさに中高生である方々共に、女子の方が男子より少し大人びているように感じられるのではないだろうか。もちろん、個人差によるのは言うまでもないが、『からかい上手の高木さん』において、常にからかう高木さんとからかわれる西片という関係性には、思春期の男女における精神面の成長スピードの差異が隠し味になっている。
その点、永野芽郁と高橋文哉というキャスティングが絶妙である。実年齢で言うと2001年生まれの高橋に対して、1999年生まれと永野の方が年上である。永野演じる高木さんは、精神的にお姉さんの立ち位置だが、彼女本来の素朴さによって時折あどけなさが垣間見える。
一方で、高橋演じる西片は、高木さんにからかわれながらも、一足先に社会人になり、時折ハッとするような頼もしさを見せる。
つまるところ、本作では、一見「女子は男子よりも大人びている」というステレオタイプに則っているように見えるが、実は、そうした単純な図式に回収できない、主役二人の繊細な部分を丁寧にすくい取っているのだ。
本作における二人の表情は、もしかすると今、この瞬間を逃したら決して映すことができなかったものではなかろうか。
かけがえのない瞬間を切り取った映画『からかい上手の高木さん』は今このタイミングでしか成立しえなかった作品である。ぜひ、劇場の大スクリーンで堪能してほしい。
(文・村松健太郎)
【作品情報】
映画『からかい上手の高木さん』
原作:山本崇一朗「からかい上手の高木さん」(小学館「ゲッサン少年サンデーコミックス」刊)
監督:今泉力哉
脚本:金沢知樹 萩森淳 今泉力哉
音楽:大間々昂
製作:映画『からかい上手の高木さん』製作委員会
配給:東宝
キャスト:永野芽郁 高橋文哉
鈴木仁 平祐奈 前田旺志郎 志田彩良 白鳥玉季 齋藤潤 / 江口洋介
©2024映画『からかい上手の高木さん』製作委員会 ©山本崇一朗/小学館
2024年5月31日(金)全国東宝系にて公開中
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