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「音」がもたらしてくれるものとは

© 土田世紀/日本文芸社・アニプレックス
© 土田世紀日本文芸社アニプレックス

さて、本作では、息づかいや声などを強調して撮られた今をときめく豪華俳優たちの渾身の演技を見ることができる。

特に主演俳優の吉沢亮の演技は格別だ。吉沢といえば、「東京リベンジャーズ」「キングダム」「銀魂」など、厳粛な雰囲気を放つ役から、変顔が多いコメディな役まで幅広く演じきり、作品を成功に導いてきた。今や、日本を代表する「アニメ実写化作品のヒット請負人」と言えるだろう。

そんな吉沢は今作で、父親が失踪し、精神を病んだ母と2人で暮らす暗い青年を演じている。吉沢演じるマコトは、闇の中から抜け出す気力すら失われているように見える。吉沢は、そんな荒んだ内面を持つキャラクターを、虚ろな目で繊細に表現している。

新しい街に行く自身を心配し、手紙を持って見送りに来てくれた友達に対しても、会話どころか目を合わすことさえしないマコトは、観客にとっても謎めいた存在である。そんな彼が心の内側をさらけ出すようなクライマックスは必見だ。

今作は、DVや貧困などワイドショーが取り上げるような問題ではなく、一見何の変哲もない「かぞく」に焦点を当てている。しかし、つぶさに視線を注いでみると、それぞれの家族には外からは見えない「ひずみ」があり、それが登場人物の人生を生きづらくしている。

大きく感情が揺れることはないが、監督・澤田石和寛と、棚川寛子のこだわりが詰まった「音楽」を体中に浴び、作品の中に入り込む感覚を劇場で体験してみてはいかがだろうか。

(文・タナカシカ)

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