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北野流の青春残酷物語ー演出の魅力

1999年の北野武
北野武監督Getty Images

本作は、1996年公開の北野武の6作目の監督作品。主演は金子賢と安藤政信で、第49回カンヌ国際映画祭の監督週間に正式出品され、国内外で大きな注目を集めた。

胸がキュンキュンするような学生同士の恋愛、そして仲間との絆―。青春という言葉に、多くの人がそんなキラキラとしたイメージを抱いていることだろう。しかし、いじめや受験戦争など、青春には負の側面もある。北野が描くのは、そんな「青春のB面」だ。

ちなみに、本作は、青春映画であるとともに、ヤクザ映画であり、ボクシング映画でもある。特に、ボクシングパートについては、学生時代に北野がボクサーを目指していたこともあり、かなり真に迫った描写になっている。

また、本作は、北野のフィルモグラフィを考える上で、1、2を争うほど重要な作品でもある。それは、マサルとシンジが、北野映画の中ではじめて「死なない」主人公であるということだ。

本作の公開から遡ること2年前。北野はバイクで走行中に事故を起こし、瀕死の重傷を負ってしまう。誰もが復帰を危うんだものの、奇跡的に一命を取り留め、比較的短期間でのテレビ復帰を話している。そして本作は、そんな北野の復帰第一作となる作品でもある。つまり、本作には、北野自身の死生観の変化がはっきりと刻まれているとともに、マサルとシンジには、「死にきれなかった(=生かされた)」北野自身が投影されているのだ。

また、北野自身の死生観の変化を踏まえることで、北野映画史に、いや、日本映画史に残るあの名ゼリフも、再起を果たそうとする北野の心を代弁したセリフだと考えることが可能になるだろう。

「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなぁ」
「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」

なお、北野は、本作の公開後、「生き残ってしまった」マサルとシンジの後日談を執筆している。舞台は映画『キッズ・リターン』のラストから10年後。刑務所から出所したばかりのマサルと、ボクシングを辞めて警備員として働くシンジが再会することで物語がはじまる…といった内容となっている。

こちらは、2013年に『キッズリターン再会の時』(監督は本作の助監督を務めた清水浩)として映画化されているので、気になる方はチェックしてみてほしい。

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