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社会の不条理をあぶり出すミスマッチなキャスティング―配役の魅力

シンジ役の安藤政信
シンジ役の安藤

本作の配役といえば、まずは主人公のマサルとシンジを上げないわけにはいかない。特に本作がデビュー作となった安藤政信は、ボクシングのシーンのために身体を作り、1人のボクサーの栄光と転落を見事に表現しきっている。本作が出世作となった金子賢も、学生時代のマサルとヤクザになってからのマサルを巧みに演じ分けている。

また、北野作品といえば、『3-4×10月』(1990年)や『ソナチネ』(1993年)での「意外性のある配役」で知られるが、この北野の一流のセンスは本作でもいかんなく発揮されている。

最も印象的なのは、シンジの先輩ボクサー、ハヤシを演じるモロ師岡だろう。今でこそ名脇役として知られるモロだが、本作の出演当時はまだコメディアン色が強く、お世辞にはボクサーとはほど遠い見た目をしている。しかし、そのミスマッチ感が、逆に妙な得体の知れなさを醸し出している。

また、マサルの組のヤクザの会長役を演じる下條正巳も、組長役の石橋凌と対比すると何ともミスマッチな配役だ。なんといっても、下條といえば、『男はつらいよ』シリーズの3代目おいちゃんとして知られる役者だ。しかし、そんな好々爺然とした下條が、ヤクザのトップを演じていることに妙なリアリティを感じてしまう。

ハヤシとヤクザの会長。この二人に共通するのは、両方とも見た目が弱々しいということだ。しかし、実のところ、権威を持っている人物や真に恐ろしい人物は、案外見た目を弱々しいのかもしれない。本作の配役には、そんな北野の意図が反映されている。

なお、シンジのボクシングジムの会長役の山谷初男やヒットマン役のト字たかお(どう見ても普通の「ハゲたおっさん」にしか見えない!)など、意表を突いた配役は、本作の随所にみられる。こういった配役の妙も映画の映画の楽しみのひとつだ。

ちなみに本作には、不良三人組の一人を演じるやべきょうすけや、カツアゲされる高校生役の宮藤官九郎など、後に名を上げる役者たちが多数出演している。このあたりの先見の明も、北野武ならではといえるだろう。

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