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“見つめる者”と“見つめられる者”―映像の魅力

北野武
北野武Getty Images

本作の映像の特徴としてまず挙げなければならないのは、初期北野映画の特徴として知られる「キタノブルー」だろう。とりわけ本作の場合、寒々しいまでに青みがかった色彩が、本作のシビアでビターな展開に見事にマッチしている。

また、映像のフレーミングで言うと、キタノブルー以上に特徴的な演出が随所に見られる。それは、画面構成において、登場人物間の“見つめる”“見つめられる”関係性を強調しているという点だ。

例えば冒頭、南極五十五号の漫才のシーンでは、袖から二人の漫才を見ているマネージャー(元不良三人組の一員)越しに彼らの漫才を見ることになる。

また、授業をさぼり、マサルとシンジが校庭で自転車に二人乗りしているシーンでは、教室から窓の外を見ているワタナベという生徒越しに、校庭の二人を見下ろす俯瞰のシーンが挿入される。

こういった北野の演出は、登場人物間の関係性を示すとともに、「どんなに落ちぶれても、必ず誰かが見守ってくれている」という救済めいたテーマを見て取ることができるかもしれない。

加えて、本作には、「分岐」を示す映像が随所に差しはさまれている。

二人乗りをするマサルとシンジを車道からカメラでトラッキングするオープニングシーンでは、途中でカメラがアンダーパスに入り、相対的にマサルとシンジがカメラの上方へと向かっていく。そして、アンダーパスの白い壁に、「Kids Return」とタイトルが表示され、その後、地上に出て再びマサルとシンジと落ち合う。

また、ボクシングをはじめたマサルとシンジが揃ってランニングするシーンでは、シンジが跨線橋を走って横断するのに対し、マサルは一旦跨線橋の下に降り、その後再び跨線橋の上でシンジと落ち合う。また、終盤、大会を控えたシンジが同じ跨線橋をトレーナーと一緒に走っているシーンでは、途中で跨線橋の下に降り、トイレに寄った後、再びトレーナーと落ち合う。

こういった「分岐」の表現には、さまざまな人生の出会いとすれ違いを描くという本作のテーマが凝縮されていると考えることができるだろう。

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