ユートピア的な空間としての床屋
トワは、行きつけの床屋で行われる自身の誕生会に園子を招待し、彼女はトワへのプレゼントとして歌を披露する。常連が集い昼から酒を酌み交わす、いわゆる溜まり場としての床屋は、登場するキャスト陣の顔触れも含めて、明らかに前作のスナックの役割を引き継いでいる。
言い換えれば、本作では、「まとも」さを強いる社会の規範から離れて、おっさんたちを含む誰もが互いを否定せず気軽にくつろげるユートピア的な空間としての床屋が、前作のスナック以上に物語上で重要な役割を果たしていると言える。
この設定が、主人公二人の「まともじゃなさ」を振り切った演出で強調しつつも、彼らがありのままで受け入れられる場を同時に確保するために要請されたものであることは理解できる。ただ、床屋のあまりにも牧歌的な雰囲気は、コメディやファンタジーのテイストに寄せすぎているようにも感じられるもので、その優しい世界にほっと息をつけるのか、リアリティのなさに冷めてしまうのかは、観る者によって意見が分かれるところかもしれない。
前田の混合型の資質と現在の観客が持つニーズを考慮した上で、演出や世界観の落とし所をどこに設定するのかについては、今後メロドラマ映画を継続的に製作し続けることとなれば、その都度微調整が加えられていくのだろう。