言葉や名前で割り切ることのできない繊細な関係性を描く

©JOKER FILMS INC.
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 おそらく、前田と高田は初期から一貫して、ジャンルの約束事であえて自分たちを縛りつつも、男女の親密でありながら、「結婚とか恋人」といった特定の名で要約できない関係性により関心を抱いてきただろう。『婚前特急』のチエ、『ラブ・スウィング〜色々な愛のかたち』(2013)の里穂(桐谷美玲)、『わたしのハワイの歩きかた』(2014)のみのり(榮倉奈々)はいずれも、恋人同士の「まとも」な接し方を一切気にせずに本音で語り合い、時には言い争うこともできる友人のような男と結ばれる。

 さらに言えば、コンビのデビュー作『くりいむレモン 旅のおわり』(2008)のアヤ(キヨミジュン)はすでに、「普通に付き合ってる」彼氏よりも血の繋がらない兄との家族的とも性的とも決定しがたい関係に惹かれていたし、『ラブ・スウィング』では里穂が引退寸前の社長たちと育む奇妙な友情が本筋と同じぐらい興味深く描かれてもいた。また『セーラー服と機関銃 卒業』(2016)でも、組長の星泉(橋本環奈)と子分たちの決して恋愛には発展しない仲の良さが、作品に不思議な魅力を与えていた。

 こうした名付けがたい関係をより積極的に称えようとする近作の傾向は、たとえば黄金期のスクリューボール・コメディについて指摘されてきた、「変人」である主人公たちに、あらかじめ合意化された「均質な文明社会」への再参入と順応を促そうとする※1ような物語構造とは一致しない。

 単に過去の名作を再現するのではない、前田らの意欲的な姿勢はおそらく、主人公たちが社会に押しつけられる「まとも」さと無関係に育む、簡単に言葉や名前で割り切ることのできない繊細な関係性の扱いにこそ、最もよく現れているだろう。

 本作は、あらゆる登場人物たちが一堂に会して床屋で行われる園子の誕生会で幕を閉じる。メロドラマの原義が「メロス=音楽+ドラマ=物語」であったことを思い出させてくれるような微笑ましいラストシーンは、同時に前作の結末を明確に引き継いでもいる。

 「まとも」であるか、規範に則っているかによっては測られない二人の関係性は、森やスナック、床屋といった特殊な空間でのみ肯定される。ほのぼのとした雰囲気とは裏腹に、ここ二作は最終的に、彼らの関係性がどんな場所でも同じように認められるものではないことをも周到に示し続けている。世間でゆるやかに共有される「まとも」さをめぐる通念とのせめぎ合いが、次にどんな物語を産むのか。今後も前田、高田コンビの活躍を追い続けたい。
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※1 加藤幹郎『映画ジャンル論 ハリウッド映画史の多様なる芸術主義』文遊社、2016年、299頁。

(文・冨塚亮平)

監督:前田弘二
脚本:高田亮
音楽:モリコン
出演:倉悠貴 芋生悠
成田凌 宇野祥平 川瀬陽太 奥野瑛太 高田里穂 松井愛莉
制作プロダクション:ジョーカーズフィルムズ ポトフ
企画、配給、制作:ジョーカーズフィルムズ
製作:「Love Will Tear Us Apart」製作委員会
2023年/日本/99分/5.1ch/スタンダード
©JOKER FILMS INC.
公式HP

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