ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 映画『ルックバック』の映像はなぜ心を打つのか? 鑑賞料金一律1700円という強気の戦略は成功した? 考察&評価レビュー » Page 4

『ルックバック』というタイトルに隠された意味

映画『ルックバック』
© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

 作中で最も印象的だったのは、タイトルが予告するように、藤野の背中を描いたシーンであった。

 それは、いつも決まって彼女が漫画に打ち込んでいるシーンだった。季節が変わり、環境が変わっても彼女が熱中して漫画を描く姿勢はいつも同じまま。背中を見るということが本作のキーワードだということが伺える。

『ルックバック』にはもう1つ、「過去を振り返る」という意味がある。それは藤野が、本編終盤で自身の過去を後悔するという展開にも繋がっている。

 しかし、あらためて素晴らしいタイトルだと思う。原作や映画版に触れた人々が、『ルックバック』という題名が意味するものに思いを馳せ、考察合戦を繰り広げているのが何よりの証拠だろう。

 本作を通して我々は、嫉妬や雪辱、見栄を張ること、夢を見ること、出会いと別れなど、クリエイターであっても、そうでなくても、誰もが1度は経験したことのある思いを追体験する。もしくは、これから経験する感情を、藤野と京本の2人から先取りする形で享受する。本作には、何かに憧れて行動を起こしたけれど、実らなかった過去を思い返しては、「同じ気持ちだった」と共感できる場面があまりにも多いのだ。

 主人公2人が抱く、好きだから打ち込める、と同時に、好きだからこそ譲れないという複雑な思い。「自分のせい」と後悔に苛まれる瞬間。細心の画作りによってキャラクターの心情がきめ細やかに描かれているからこそ、鑑賞中、心が苦しくなる瞬間が何度も訪れた。

 しかし最後は、藤野と京本のように、「運命」という言葉でしか言い表せない存在に必ず出会える。それは、この映画そのものに他ならない。目まぐるしく変わる世の中に揉まれて、がむしゃらに生きる日々の中で鑑賞する『ルックバック』は、鑑賞料金では計れない喜びをもたらしてくれる。

(文:Sakura Ito)

【関連記事】
【写真】まるで絵が生きているみたい…感動が蘇る珠玉の劇中写真はこちら! 映画『ルックバック』劇中カット一覧
絶望感が半端ない…究極の“鬱アニメ”は? トラウマ必至の名作5選。スッキリしない結末が強烈な魅力を放つ作品をセレクト
「解決策は逃げるか殺されるか」映画『あんのこと』が浮き彫りにする“日本の病理”をノンフィクション作家・中村淳彦が徹底解説

1 2 3 4
error: Content is protected !!